第6話



 百合川の勉強は毎日続き、俺は顔を出す日もあれば、用事があると帰る日を続けた。


 梅雨を終えたのか、今日はじりじりと地面を照らす太陽が出ていた。

 そんな日に百合川は晴々しく追試を乗り切った。


「お、終わったわ〜。やっと、やっとよ」

「おつかれ〜」

「いや〜、再々追試まであるとは思わなかった」


 教室の一角。百合川、八千と集まって話をする。


「テスト、どうだった?」


 そこへ二階堂、シキ、六花、クルリがやってくる。

 百合川は二階堂の質問に手でV字マークを作り見せる。


「クリアよ」

「本当! おめでとう」

「良かったわね」

「お疲れ様。良かったね」


 六花、クルリ、二階堂が百合川の言葉に返す。


「いえ、本当にありがとう。みんなが助けてくれたから追試を乗り越えられたわ」

「いや、百合川の実力だろ。頑張ったしな」

「やっぱり、そうよね」

「調子良いな」


 百合川の掌返しにシキは苦笑いを浮かべる。


「そしたら、今日は7月7日で晴れそうだし、七夕パワーかしらね」


 百合川はホクホク顔で言う。


「そういえば、そうだね。星祭りも今週末だね」


 二階堂が楽しそうに笑う。


「みんなで行くのよね。私、楽しみしてたのよ」

「私も楽しみしてたわ」


 百合川と六花が目を合わせると喜び合う。その様子に周りの雰囲気は明るくなる。


 そんな中で思わず出てきた星祭りの名前に、俺は少し意識が逸れる。しかし、それもほんの僅かな時間ですぐさま会話に戻る。


「いや〜、俺も楽しみだよ。みんなは浴衣で来るの?」

「浴衣だと何があるのよ?」


 俺の質問にクルリがこちらを見た。


「それは俺とシキがみんなの浴衣姿を堪能するだけに決まってるじゃーん」

「あなたの前に浴衣姿を見せるのはもったいないわね」

「クルリちゃん、君の浴衣姿も楽しみにしてるからね。細身の方が似合うって言われてるし」

「セクハラと捉えて、つねっても良いかしら?」


 クルリとふざけ合うといつもの調子が戻って来たような気がする。


「二階堂の浴衣姿か……。見てみてぇ……」


 そんなシキの小声が俺にだけ聞こえる。


「なんだ、シキ。浴衣の脱がし方を知ってるか? きちんと教えるぞ」

「そんなのは聞いてねぇーよ!」

「むっつりなんだから〜」

「……むっつりじゃねぇ」


 少し言い淀むシキ。その反応だとむっつりだと捉えられてしまう。


「何、バカな事言ってるのよ。そんなの知ったって意味ないでしょ。甲斐性なしなんだから」


 シキの頭に軽くチョップをしたのは六花。


「いてぇーよ。何すんだよ」

「軽く乗せたぐらいでしょ?」

「……軽くなのか? これが軽くなのか?」

「その反応はなんなのよ」


 シキが驚いたように六花を見る。どうやら見た目以上にチョップは痛いらしい。


 うーん。これは本当に力の差があって、六花にとっては軽くだけど、普通の人には軽くないやつだ。さすが、パワー系ヒロインだな。


「そうだ! 試験の終わりも兼ねて、今日に遊びに行かない?」


 八千が思い付いたように声を上げる。


「良いけど、部活は大丈夫なのか?」


 俺は八千とクルリに目を配らせる。


「今日は大丈夫よ。職員会議で先生全員が集まるから部活できないのよ」

「そうそう。私も部活ないの!」


 2人はそう言って、遊びに行けることを教えてくれる。


 職員会議がある事も初めて知ったが、そういった日に部活が出来ないのも初めて知った。

 部活は監督、監視の教師がいないと活動出来ないのかもしれない。


 そんなことを考えているとシキは少し考え込むようにアゴに手を当てた。


「……」

「どうしたんだよ、シキ!」

「ん? いや、なんでもない。俺も遊びに行けるなって思っただけだ」


 シキに話しかけると、彼は考えるのをやめた。

 何を考えていたか不思議だが、深く聞いても仕方ないのでやめる。


「みんな行ける?」


 八千の言葉にみんな頷いた。


「なら、放課後に遊びに行こー」


 ハツラツとした八千の姿は部活の休みを楽しむ気力で溢れていた。

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