第3話



 百合川のお願いにみんなは顔を合わせた。


 ここまで切実にお願いされてしまえば、誰も断ることはできない。お互いに時間が作って勉強を教えようとしている。


 じとっと眠たげな目の女の子がみんなを一瞥すると、小さく手を挙げる。


「私は部活あるから教えるってなると時間を合わせられないわ」

「あれ? クルリちゃんって部活入ってるの?」

「吹奏楽部よ」


 クルリが部活に入っているのは知らなかったので驚いた。それにしても吹奏楽部となると忙しそうだ。


「私も部活あるから上手く時間作れないかもしれない」


 申し訳なさそう笑いながら八千が断る。バスケ部の八千も教えるのは難しそうだ。


「それならチアキに教えてもらうのはどうだ? 学年2位だろ? それに部活もやってないし」


 シキがそう言って訊ねると八千と六花は困ったように笑う。


「それが……」

「チアキちゃんの日本語が難しくって分かんないよ」


 百合川は涙を拭いながら話す。


「えぇ……」

「日本語わかんないよ。なんなの日本語! 日常会話ならなんとかなるのに勉強だと何言ってるかわかんない!」

「それは日本語の問題じゃないと思うのだけど」


 シキの困ったような反応とクルリの鋭いツッコミが入る。


「私一人じゃ説明しきれなくて……。だから、誰か一緒に教えてくれる人がいたらいいなって思ってたのよ」


 六花が困ったように頬に手を当てる。


「なるほどね。そしたら、私も手伝うよ。部活もやってないし、普段は家の手伝いしてるだけだから時間も作れると思う」


 二階堂は微笑みながら百合川の頭を撫でる。


 その様子に俺はシキの背中を叩く。


「シキも暇だろ? 手伝ってあげれば良いじゃん」

「うぇ!? 手伝うって女子しかいないぞ!?」


 眉間にシワを寄せたシキがこちらを見る。


「俺も手伝うからさぁ〜」

「あなたはいらないわよ」


 背中からクルリの小声が聞こえてくる。


 ん〜、辛辣!

 要するに二階堂の邪魔をするなと言うことだと察する。


「二階堂と百合川が迷惑じゃなければ、俺も教えるの手伝う」

「ちゃっかり私を抜かすんじゃないわよ」

「チアキは拒否するだろ」

「当たり前じゃない」


 シキと六花がそう言って睨み合う。

 その様子をくすくすと二階堂は笑いながら見る。


「マイちゃんが大丈夫なら私は大丈夫だよ」

「迷惑じゃない。朝一くん、ありがと」


 百合川は涙目でシキを見る。


 この女の子に囲まれるシキのハーレム能力。

 そして、さりげなく俺がこの輪から外される流れ。

 これだから主人公補正とモブ属性は嫌になる。


 その時にスマホのバイブ通知が来て、俺はポケットからスマホの画面を確認した。

 そこに表示されたメッセージの文字に俺は思わず頬が綻んだ。

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