第2話
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職員室近くの掲示板。
夏が近づき、暑さが本格的になってきたというのに、掲示板の周りには人集りが出来ていた。
むわっと湿気を含んだ空気が出来ていたが、そうであっても誰もが気になる結果が掲示板に貼り出されており、俺もその人集りに寄っていく1人であった。
「シキ、見つけたか?」
「ああ、見つけた。55位だ」
「おお。結構上だな」
「まあ、次は50位より上だな」
「高校入ってから初めてのテストだしな」
俺はそんなやり取りを隣にいる黒髪の男の子と話す。
テストの総合点で比べた順位表。それが掲示板に貼り出され、俺とシキは自分の順位を探しに来たのだ。
「お、俺も見つけた」
「何位だ?」
「23位かな。次はキープか、少し上を目指す感じだな」
「高いな。お前、頭良かったもんな」
「いやー、それほどでも」
「全然、謙遜しないよな」
「ははっ、褒めてもらえるために頑張ってるからねー」
俺はふざけるように笑うと、シキは呆れたようにこちらに顔を向けた。
そのシキの先に見慣れた女の子を見つける。
「シキ、二階堂がいるぞ」
俺はシキの後ろにいる小動物を思わせる容姿の女の子に指を差した。
「話しかけようぜ」
「ああ」
シキの表情に緊張の色が浮かぶ。
全く。どこか羨ましいような反応だ。
自分も同じ状況だったら、と思わず重ねてしまいそうだが、有り得ないことを想像しても仕方ない。
「よう、二階堂。順位どうだった?」
「あ、朝一くん。60位だったよ。まあまあなのかな?」
「300人中だったら良い方だって」
シキと二階堂は話し始める。
その様子を見て、俺は余り物同士で並んだ。
「やっ、クルリちゃん」
「どうも」
クルリはそれだけ言うと視線をシキ達へ戻す。
「クルリちゃん、順位が隣だったねぇー」
「そうね。あなたの1つ下というのが腹立たしいわ」
「いやいや、頑張ったからね」
自慢げに話すとクルリに睨まれる。
そんな話をしていると、さらに女の子3人組がやってくる。
「やっほー。みんなどうだった?」
明るくこちらに手を振るのはウェーブの掛かったポニーテールの女の子。
「ミナツちゃん、結構良かったよ」
二階堂が八千に手を振る。
「おっ、なら良かったよ! 私も100位以内に入れたから良い感じ。部活やっててこの順位なら満足だよー」
八千が楽しそうに笑う。
「チアキはどうだったんだ?」
シキが六花に視線を向けると、六花は自慢げに微笑む。
「学年2位よ!」
「うぇ!? 脳筋じゃなかったのかよ!」
「筋肉だけじゃないわ。溢れる知性も詰まってるわよ」
溢れているのか詰まっているのか分からないが、六花は頭が良いらしい。
「まさかね」
「まさかだね。溢れる知性だってさ」
クルリが驚いたような呟きに適当な相槌を入れる。
そして、その2人に隠れた小さな女の子がチラリと顔を出す。
ボブヘアーにぼーっとしたような表情の女の子、
「た、助けて」
ブワッと溢れ出る涙には悲痛な願いが零れていた。
「ど、どうしたの?」
二階堂がハンカチを取り出して、百合川の涙を拭う。
「順位が下の生徒には追試があるの。それで私も追試になっちゃった」
「あー、なるほどな」
百合川の言葉にシキは困ったように答えた。
「何位だったんだ?」
俺は百合川に訊ねると、彼女の涙はさらに溢れ出る。
「……291位」
「……最下位ね」
「う、うぅ……」
クルリの言葉に鼻水まで出して百合川は顔をぐしゃぐしゃにした。
「べ、べんぎょう、おじえでぇー」
「なんで入学して間もないのに切羽詰まってるんだ」
二階堂に泣きつく百合川にシキは驚いたようにツッコミを入れた。
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