第8話



 良いことをしたと気分良く下駄箱へ向かうと、丁度そこにはぱっつんロリメガネのくるりん☆ことクルリが靴を履いている所だった。


「あっ」

「おっ」


 そんなマヌケな声でお互いに挨拶すると、クルリは黙って視線を逸らした。


「クルリちゃ〜ん! 奇遇じゃないか〜!」

「うわ……」


 クルリの低い声が聞こえてきたが、スイッチの入った俺には関係ない。


「一人で帰宅なんて寂しいじゃん! 俺が途中まで一緒に帰ってあげるよ」

「あなたも一人じゃない」

「僕、寂しい〜。クルリちゃん、一緒に帰って〜」

「うわぁ……。嫌よ」

「帰り道は危険だから途中まで送ってあげるよー」


 クルリがつま先でとんとん、と地面を叩いて、かかとを入れている間に、自分のローファを取り出し、上履きをしまうと、すぐにローファへ履き替える。


「あなたって、なんでそんなにしつこいのよ」

「えー、何の話だい? 俺と君との仲だろ」

「無関係っていう仲だったかしら?」

「そ、そんな! あんなことまでしておいて!」

「どんなことよ。言わないでいいわよ。聞きたくないから」


 なかなか酷なことを言い続けるクルリ。しかし、これは真っ当な反応だと思う。


 ダル絡みされたら、普通は相手にしない。


「あなたはこういう時に黙っていれば良いのに」

「黙ればイケメンということだね」

「何をちょっと渋い声で言っているのよ。ありえないわよ」


 クルリは歩き始め、俺はそれについて行く。


 文句は言われない。

 きっと、面倒だとは思われている。


 これは俺と工藤瑠璃の友達としての付き合い方だ。

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