第2話



 シキ達は射的の前で立ち止まり、ここから見える位置で遊び始める。すると、眠たげな目がこちらを向いた。


「それで、あなたは何でこんなところで座っているのかしら?」


 相変わらず、答えにくい質問を彼女はしてくる。


「ここからだとシキ達を見つけやすいからね。動き回るよりもここにいた方がいいって思ったからかな」


 ここら辺の回答が無難だろう。


「そう。たしかにそうね。でも、少しだけ気を落としているようにも見えたから聞いたのよ」


 相変わらず、鋭い観察眼だ。そもそも、そんな風に座り込んでいるわけでもない。シキをここから探していたのも事実だ。しかし、クルリには満足の行く答えにはならないだろう。彼女は知りたがりだ。


「まあ、七星もお祭りに来ているから鉢合わせたくなかったかな」


 俺がそういうとクルリは驚いたように目を大きく開けて、パチクリと瞬きをした。


「……意外ね。あなたからその話を振ってくるのは」

「そうかな? それに聞かれたから答えてるんだけどね」

「まあ……そうね」


 クルリは俺から目を逸らし、射的の屋台へと視線を戻した。


「つい、先日に告白してフラれてしまいまして。元々、俺以外で好きな人がいるのは知ってたんだけどね。フラれた後に顔を合わせるのは少し気まずいと思ってさ」

「……それは初耳ね」

「話してなかったからね。それで今は傷心に浸って一人でお祭りを楽しんでいたのさ」


 自虐的に笑いながら言うが、クルリから笑い声は聞こえない。彼女を見れば、俺をじっと見ていた。


「そう。なら邪魔をしてしまったかしら」


 真剣な彼女の表情に俺は考え込む。


「……そうだね。少し一人になりたいかもしれない」


 ここに一人でいた方がぼんやりと感傷に浸っていられるかもしれない。そうなると周りに知り合いがいない方が気は楽だ。


「そう。なら、いないものとして扱って構わないわ。私はもう少しあなたの隣にいようと思う」


 クルリの答えに俺は呆けてしまう。


「夏祭りにまで来て、ひとりぼっちになる必要はないわ。あなたがぼんやりしてようが、私は気にしないし、元気になるまで一緒にいてあげるけど?」


 いつもの眠たげな目が俺を見つめる。


「なんか妙に優しくない? どうしたの?」


 彼女がここまで俺に対して親切だと何かあると疑ってしまう。


「別に何もないわ。友達として、この間のアイスのお返しをしようと思っただけよ」


 アイスと言われて思い浮かぶのは、シキと二階堂のデートの後を追いかけて行った日のことだ。


 クルリはこうして慰めることで、そのお返しをしようと思っているのだろう。


「そしたら、ありがたくお返しを貰うよ」


 不器用な彼女のお返しに俺は思わず笑った。


 友達として、クルリは優しい女の子だ。普段は口が悪く冷たい態度だが、こう見えて優しい女の子だったのだ。


 俺は射的で遊ぶ親友を見た。好きな女の子に景品のぬいぐるみを渡して、喜ぶ顔に赤面する親友。


 あんな恋愛は出来ない。好きな女の子の隣でお祭りを楽しむなんてラブコメディは出来なかった。


 それでも、心優しい友人に背中を押され、隣で慰められ、それなりに青春を謳歌しているような気はする。


 それでも、親友を見て思う事はある。


 やはり、俺にラブコメディは訪れない。

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俺にラブコメディは訪れない 永川ひと @petan344421

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