第2話



 ✳︎✳︎✳︎✳︎



 太陽たいよう燦々さんさん。五月晴れの降り注ぐ日差しが教室の中へ入り込む。空には雲一つなく、あの憎き太陽が隠れることはないだろう。


「はぁ……」


 このため息には色々な意味が含まれているが、今回ばかりは憂鬱な日差しのせいである。

 この日差しお陰で授業中は教室内のコントラストをハッキリとさせて、黒板の文字を見にくくさせるのだ。


「朝なのにため息って、何かあったか?」


 そう言って声をかけてきたのは我が親友、朝一あさかず史樹しきだ。


「いやー、降り注ぐ太陽が眩しくて……って、シキこそ何があったんだよ!?」


 声の主へ振り返れば、そこには靴底の跡を頬に残したザ・フツメンの親友の姿があった。


「学校のへいの上から女の子が降りてきてな……」

「そんな空から女の子が降ってくるようなこと、あるわけないだろー」


 俺はバカにするように笑うと、シキは「ほんとだっての」と小声で呟いた。


「ど、どうしたの、朝一くん!?」


 シキが俺の席の前に座ると、そこに現れたのは2人の女の子。


「いや、ちょっと怪我しただけだ」

「ちょっとでもすごく痛そうだよ。これ使って?」


 黒髪にミディアムヘア。小動物を思わせるような潤んだ瞳の女の子は制服のポケットからハンカチを取り出して、シキへ渡す。


「お、おう。ありがとう」


 それをぶっきらぼうに受け取るシキを見て、思わずニヤニヤせずにはいられない。

 他人の恋愛事情は外から見ていて楽しいものだからだ。


「泥だけでもこれで取ってね?」

「お、おう」


 どもりながら頬を僅かに赤らめさせるシキ。それを心配するような表情で見つめる二階堂にかいどう小春こはる


 シキだけでなく、彼女もシキに好意を寄せているだろう。これは日々の行動を見ていて、確信に近づいたことだ。


 あとは彼女の隣にいる工藤くどう瑠璃るりに裏を取れば、シキの背中を押して、くっつけるだけの段階まで来ている。


藍原あいはらくん、何をニヤニヤしてるのよ」


 俺、藍原あいはら陽輝ようきの名前が呼ばれて、声の主を見ると、ポニーテールにぱっつんロリメガネのちんちくりんが隣の席に座っていた。


「何か失礼なこと思ったでしょ?」

「嫌だなぁー。そんなわけないでしょ。ちんちくりんとかぱっつんロリとか思ってないよー」

「あなたがそう思っているのはよく理解出来たわ」

「嘘ですっ! 嘘嘘!」


 彼女、工藤瑠璃のジト目がこちらに向いた。


 いっけねぇや。危うく機嫌を損ねてしまうところだった。


 彼女と仲良くなってシキと二階堂をくっつける算段を考えてなきゃいけない。それでもって、2人をからかう使命があるんだ。


「藍原くんとクルリ、何かあった?」


 俺が慌てた声を出したせいか二階堂がこちらを気にかけた。

 クルリという可愛い名前はぱっつんロリこと工藤瑠璃の事で、工藤の“ク”と瑠璃をくっ付けて、クルリという風になったらしい。


「別に何もないわよ。私達はいいから朝一と話してなさいよ」

「ちょ、ちょっとクルリ! み、みんなでおしゃべりしよ!」


 顔を赤くさせて、慌てる二階堂。その姿を見れば誰だって、彼女がシキに想いを寄せると分かる。


 それなのに……


「ん? 何の話だ?」


 とぼけた表情でこちらを見るシキは、彼女の想いに気がついてないようだ。


 鈍感系フツメン男め。

 羨ましいを通り過ぎて哀れだぞ。

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