第35話 魔剣暴発

「一つの能力に頼った戦い方は弱い。たとえ様々な応用の仕方を考えられていたとしてもね」


「何か勘違いしているようだな。谷川玲香。私は多重人格者。使える魂などいくらでもある。お前の知らない能力など、他にいくらでも使える」


 レーヴァテインは玲香さんを挑発するが、玲香さんの表情は変わらない。


「奇遇だな。私も、使える魔法ならいくらでもある」


 虹色の光線が9つ走り、レーヴァテインを貫かんとする。


「黒雷五式【城塞】」


 レヴァの身体を守らなければ。その一心で魔剣を発動させると、口をついて出たのはそんな詠唱だった。


 ドーム状の黒いシールドが現れ、玲香さんの攻撃を防ぐ。同時に、シールドの表面を流れる電流がレーヴァテインを弾いた。


「大した攻性防壁ね」


 玲香さんは呆れたように感嘆の言葉を口にする。


「感心している場合か? あれはどうする気だ?」


 レーヴァテインは上を指さす。


「え……」


 見上げると、太陽が揺らめいていた。違う。これは水の揺らめきだ。とんでもない質量の水が天空を覆っているのだ。


「英治くん、【城塞】を広げて!」


「はい!」


 この街の上空だけでも覆うことができれば、残った水は城壁に阻まれるのでどうにかなる。そう考え、俺は魔剣に広がるよう念じた。


 意外と何とかなるものだ。魔剣は俺の思念に応えて範囲を広げ、落下してきた水塊は弾かれた。


 こんな傘みたいな使い方もできるとは。魔剣は便利だな。


 と思っていたところだった。


 突如として魔剣は弾けとんだ。


「え?」


「あーあ、だから言ったじゃないですか。魔剣を使いこなすのは難しいんです」


 俺が呆気に取られていると、ガスパールが窘めた。


 だからって今暴発しなくてもいいじゃないか。


 水塊はそのまま街に降り注ぎ、あっという間に水没させるかに思えた。


 だが、水は徐々に一点へと集束していく。巨大な水の球体が形成された。


 すると、ぞろぞろと人が家から出て、ある一か所に集まっているのが見えた。


 避難所か? いや、見た目からしてあれは神殿だ。あそこに何があるというのか。


「サルーテの大聖女、ミーティアの転送術式か。どうやらこの街の長は、街を放棄して、住民だけ逃がすことにしたようね」


「そうなんですか」


 俺には何が起こっているか全く分からないが。


「それより、奴が出て来るわよ」


 ダゴンの死に際の攻撃を防いだと思ったらまだ何かあるというのか。


「英治くん、はじめまして。レヴァちゃんでーす!」


 レーヴァテインはまた人格が変わったようだ。今までの人格とは違う不気味さを本能的に感じる。


「お前がレヴァを名乗るな」


 突き放すように言うと、レーヴァテインは頬を膨らませた。

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