第27話 予想以上の窮地

「まぁでもここは魔王領に隣接する街だから、目的地までそんなに時間はかからないわよ」


「ここが魔王城に近づける限界ってことですか」


 ここは小高い丘になっていたが、下には城壁に囲まれた街があった。さすがは魔王城に隣接しているだけあって、濠も三重になっており、幅も広い。


「そうなるわね。って、その娘、もう寝ちゃったか」


 見ると、レーヴァテインは俺に寄り掛かったまま眠っていた。


「野宿しますか」


 日も暮れかけていたので、俺はそう提案する。


 すると、玲香さんは何やら防護魔法を三重にかけ始めた。


「そこまでする必要あります?」


「あるわよ。ここは魔王領も近いし、低級だけど魔物も出る。通常の防護魔法と、攻性防壁の【浄華聖焔】、さらに透明化の隠匿魔法。加えて魔力探知にかからなくするテントを被せてようやく80点、ってとこかしらね」


「玲香さん、キャンプ道具まで常時携帯しているんですか?」


 さっきまでリサ社長と共にパズズと戦っていたのだ。テントを準備をする暇があったとは思えない。


「異世界の高位冒険者は皆、手持ちの道具に召喚の魔法陣を描いておくものなの。だからいつでも取り出せるってわけ」


「そんな文化があるんですね」


 何より驚くべきは、魔王の妃として恐れられ、次いで現世最高の大企業に勤めてなお、冒険者としての技術を忘れていないところだろう。


 その旨を伝えると、玲香さんは不思議そうな顔をした。


「まぁこの程度のこと、歯を磨くのと一緒よ。転職したり転生した程度じゃあやらなくなったりしないでしょ? そういうものよ。異世界転生したことのないあなたには分からないでしょうけど」


「はぁ」


 喩えが壮大過ぎてピンと来ないな。


「何にせよ、これから一ヶ月はルーラオム攻略に向けて絶えず身を守りながら策を練ることになる。一瞬たりとも気は抜けない。あなたはそういう道を選んだのよ」


「はい」


 俺はそうとだけしか返せなかった。修羅の道を歩む覚悟が、まだ定まっていなかったからだ。


「私の側についてくれる魔王軍幹部はもういない。全員粛清されたから。まさに孤軍奮闘ってことになるわね。ついでに私は大罪人。一般人の提供するサービスも受けられない。冒険者登録なんてもってのほかね」


「……」


 これは想像以上に追い込まれてしまったな。

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