第26話 死にたがりの少女
「だから、私を殺してって言ってるでしょ!」
二つの月が浮かぶ異世界の草原で、レーヴァテインは喚き散らす。助けたはいいものの、本人がこの様子ではどうしようもない。
「あなたまで死ぬ必要はない。大量殺戮は別人格がやったことでしょ。あなたの魂だけを別の肉体に移すことが出来れば、生き永らえられる」
「でも、私の魂は別個でも、肉体と記憶は共有されているの。今も人の首を掻き切ったときの別人格の記憶が鮮明に残っている。こんな状態で生きていけるわけないでしょ」
絶望に目を見開きながら、レーヴァテインは絞り出す。その表情は、恐怖、罪悪感、諦観がないまぜになった、なんともおぞましいものだった。
だからこそ、俺はこの少女にこんな顔をさせた奴を許すわけにはいかない。
「どうする? 殺さない? 本人も死にたがっているようだし」
玲香さんは心底面倒くさそうに言う。次いで長剣レデイレイの柄に手をかける。
「ひっ、でも痛いのは嫌! 殺さないで!」
「どっちなのよ」
死にたいけど死ぬ勇気もないといったところか。なんだかその気持ち、すごくよく分かる気がする。
「でも異世界になら、さっき言ったような別の肉体に魂を移すような技術があるってことですよね?」
「あるわね。少なくとも、私のいた頃の魔王城にはあった」
「では魔王城までゲートを開きましょう!」
「無理ね」
ようやく見えてきた希望は即座に打ち砕かれた。
「なぜです!」
「私、謀叛に遭って魔王城出禁になってるのよ。現魔王軍の張った結界を突破しないと無理ね。それに、」
玲香さんは黒いフードのついたケープを召喚し、身に纏った。
「【ルーラオムの魔妃】は魔王に与して勇者を殺した大罪人。ここの世界じゃ、相当悪名高いのよ。だから、私の正体がバレないよう行動しないと面倒なことになる」
「まさか、まともな宿屋にも泊まれない?」
「基本は野宿だと思った方がいいわね」
マジか。もはや別行動した方がいいくらいだな。
「でも、異世界じゃパシフィック社の自動防御システムも使えないから、私と一緒にいないと、英治くんすぐ死ぬわよ」
「そうですね」
ガスパールの時間逆行の力以外に、頼れるものはない。シールドも攻撃魔法も使えないのなら、その辺の魔物に襲われて死ぬ自信しかない。
というか、リサ社長に反旗を翻してここまでやって来たのだ。仮に異世界でも利用できたとしても、自動防御システムのサービス提供は止められていて当然か。
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