第28話 魔妃の威厳

 そうして一夜が明けた。


 朝食はどうするのだろうか。まさかその辺の魔物を狩って食べるのか?


 などと考えていたが、これもまた召喚魔法で解決した。玲香さんは携帯食料をいつでも召喚できるようにしていたらしい。こんな状況で贅沢は言えないが、実にひどい味がした。


 ま、異世界の文明レベルなんてこんなものか。


 一通り食事を終えると、玲香さんはゆっくりと立ち上がった。


「さて、それなりに集まったようだし、掃除しますか」


 掃除? 野外で掃除も何もないと思うが。


 玲香さんが右手を掲げると、三重の結界は解かれた。


 眼前に広がったのは、モンスターの大群だった。人型のもの、動物型もの、幻獣型のもの、スライムみたいな不定形のものなど、見た目は様々だ。


「まさか、掃除ってモンスターの掃除ですか?」


「そ。それなりに数が集まるのを待ってたの。ま、私の張った結界も破れないところを見ると、雑魚だけどね」


 玲香さんは余裕そうだ。俺はもう既にチビリそうだが。


 何より、これだけ多くの人間にすら囲まれたことがないのだ。まして人外の大群ともなれば、失神しないだけでも上出来といったところだろう。


「【ひれ伏せ】」


 だが玲香さんがそうとだけ命じると、モンスターたちは地面に吸い込まれるようにして倒れ込んだ。皆もがいているが、地面をただ這いつくばるだけだ。立ち上がれそうな気配もない。


「何が起こっている?」


「なぜ立ち上がれない?」


「重力魔法か?」


「だが、あの女からは魔力など感じない……」


 人語を喋れるモンスターは一様に戸惑っている。


「魔力など使う必要はない。貴様らの本能に刻まれているからだ。魔妃たる私の恐ろしさがな」


 玲香さんは、先ほどまでとは全く違う、冷酷な口調で告げた。


「魔妃だと? しかし魔妃は既にこの世界から立ち去ったはず」


「現魔王アラキエル様が追い払ったはずではないのか!」


 おい。玲香さんって異世界でどんだけ恐れられてんだよ。皆玲香さんの顔すら知らないようなのに、本能で恐怖を感じるって相当だな。


 これが【ルーラオムの魔妃】の威厳。その片鱗というやつか。

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