第36話 魔妃の娘

「英治くん、つめたーい。私のこと命がけで守ってくれたじゃん!」


「お前を守ったんじゃない。レヴァを守ったんだ。俺が守りたいのはレヴァであってレーヴァテインではない。お前のような殺戮者は、今ここで滅する」


「は? レヴァ? なにそれ。私の人格の片割れに名前なんかつけてるの? 気持ち悪っ!」


 レーヴァテインは大げさに震えてみせた。


「何とでも言え。レヴァをお前の好きなようにはさせない」


「だから気色悪いんだよロリコンが。いい? 私は多重人格という重ーい障害を負っているの。他の人格に身体を乗っ取られている間は、何をしでかすか分からない。でも私なりにそれを上手く利用する方法を考え出したの。面倒な私の片割れどもには、悪魔への生贄として役立ってもらうことにした。幸い、違う人格なら違う魂と見なしてくれるようだったしね」


 まさかとは思っていたがこいつ、管理者人格か。そして、自分の分身を何とも思っていないのか。


 これがレーヴァテイン管理者人格の本性。口調こそ年相応だが、今まで顕現したどの人格よりも残忍で狡猾だ。


「貴様、レヴァを道具か何かとでも思っているのか?」


「道具というより消耗品かな。悪魔を稼働させるための燃料のようなものだよ」


「そうか。それがお前の思想か」


 俺は魔剣の黒雷を腕に纏わせる。


「どうする? 殺す? 私を殺したら、英治きゅんの大好きなレヴァちゃんまで死んじゃうよ? どうするのかな?」


「くっ」


 どうすればいい?


 魔王城へ行って魂を取り出す技術さえ見つけられれば、レヴァのみを救える。


 しかしもう管理者人格が出てきてしまった。どんな悪魔を使う人格と意識を切り替えてくるか分からない。どうする? どうやってこの場を切り抜ければいい?


「不思議な娘ですねぇ。レーヴァテイン。いえ、ダリア・フォン・ルーラオム。魔妃の最初の子にして、複雑な精神構造を持つ少女」


「ルーラオム? レーヴァテインの本名は、ダリア・フォン・ルーラオムなのか? そうなんだな、ガスパール!」


 玲香さんが慌てた様子でガスパールを問いただす。


「おっと、口が滑りました。未公開情報でしたか? でもこの情報、今ここで開示してしまった方が面白くなるかと思いまして」


 ガスパールがまた話をややこしくしてくれたな。


「どうやら真実のようです。玲香さん。ガスパールは嘘がつけませんし」


 玲香さんは滝のように汗をかいている。こんなに動揺する玲香さんを見るのは初めてだ。


「ダリア……私のダリア。死んだはずじゃ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る