第13話 自動防衛システム

「さて、走りますか」


 俺は全力で夜の街を疾走するが、すぐに息切れした。


 まずい。


 この一週間引きこもったことで運動不足状態になっていたのか。体力がかなり衰えている。このままじゃ逃げ切れないか?


 そんなことを考えていると、遠くから騒ぎ声が聞こえてきた。ただの喧騒ではない。なにか異質でおどろどろしい響きだ。音は徐々に近づいてくる。


 まさか。


 レライエの能力で暴徒化した連中が押し寄せてきているのか? 確かあの悪魔の能力は、争いを引き起こす能力だったしな。


 俺はどうにか気力を振り絞って細い路地に入り、カフェのテラス席下の狭い隙間に身を隠した。


 人々の怒鳴り合う声が聞こえてくる。次いで、肉が裂け、骨が折れる不快な音が響く。


 俺は努めて外の光景を見ないよう自分に言い聞かせ、息を潜める。


「なんだってこんなことに……」


 俺は宝くじで得た10億で平穏に暮らしたかっただけだ。なのにガスパールとかいう女神が現れてから散々な目にばかり遭っている。だいたい、レーヴァテインとかいうのに付け狙われるようになったのもガスパールの所為だ。


 とはいえ、ガスパールの予知能力が無ければ俺はホームレスに転落していた。結局こうするしかなかったのだ。


 俺は思わず耳をふさぐ。


 こんな争乱のど真ん中に放り出されるなんて、理不尽だ。働かずに金を貰ったからって、なんでこんな目に遭わないといけないんだ。宝くじだって立派な投資だ。宝くじを諦めずに買い続けるという努力をしてきたからこそ、千載一遇の幸運に与かることができたというのに。


「見つけた」


 少女の声がする。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 どうしてここが分かった。玲香さん? いや、玲香さんじゃない。全然知らない子供だ。


「あなたをいたぶって殺すのもいいけど、それよりサクッとやっちゃった方がいいか」


 俺は隙間から這い出し、全力で逃げようとするが、襟を掴まれ、引き戻された。とても子供の力とは思えない。


「じゃあね。ガスパールの契約者さん」


 少女は俺の首めがけてナイフを振り下ろす。


 が、さっきの結界に弾かれ、ナイフは地面に落ちた。


《お客様の安全保障のため、自動防衛システムが作動しました。継続してのご利用には料金が発生します。購入するサービスを選択してください。ロークラス、ノーマルクラス、ハイクラス……》


 さっき玲香さんから渡された鍵が青く発光し、そこから音声が流れ始めた。これが守ってくれるのか?


「とりあえず一番高い奴を頼む!」


《承りました。エキストラハイクラスパッケージのご購入、ありがとうございます。代金の4億円は、一週間以内にお支払い下さい》


 4億か。だがガスパールの権能で一週間運用した分で払えば、元本の10億を減らさずに支払える。


 僥倖だな。

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