第14話 聖雷一閃

「フッ、結界かぁ。それもなかなか硬い。ナイフでは削れないね」


 何回かナイフで斬りつけた後、敵の少女はそう結論づける。今のうちに逃げよう。


「じゃあ、こんなのはどう?」


 少女が問いかけると、さっきまで殺し合っていた群衆が一斉にこちらを向いた。


 俺は戦慄する。


 その狂気に満ちた眼光に気圧されたからというだけではない。皆血まみれで、手足が欠損しているというのに動き続けている者もいたからだ。


「うぐっ」


 こみあげる吐き気をどうにか抑え、俺は走り出す。が、


「よいしょー」


 少女の気の抜けた掛け声とともに、俺は結界ごと群衆に担ぎ上げられた。


「なっ」


「せーのっ、一回、二回、三回、四回……」


 少女の声に合わせて俺は揺らされる。ドーム状の結界を胴上げの要領で投げられているので、押し上げられるごとに半回転してしまうのだ。


 視界がゆれ、またしても吐き気が襲ってくる。俺は鍵を握りしめ、叫ぶ。


「どうにかしてくれ! こっちは金払ってるんだぞ!」


《結界を解除します》


 は? そんなことしたら瞬殺されるだろ。


 俺は透明な結界の守りの外に弾き出され、無防備な身体を晒す羽目になった。


《広範囲攻撃魔法を使用します。対象の殺害は禁じられているため、対象を速やかに無力化いたします》


「おぉ」


 それなら助かる。


《聖魔法【聖雷一閃】》


 空に白い巨星が煌く。満月をも圧倒するほどの輝きを放ち、白い稲妻がそこから放たれる。俺は思わず目を瞑った。


 無音の攻撃が群衆を襲う。俺には何の衝撃も伝わってこない。発動者は守られる仕組みになっているのか。


 次に目を開くと、群衆は皆気絶していた。


「すごいな。助かった」


 俺はシステムを労うが、返事はない。一方的な通告しかしてこないようだ。


 だが最悪なことに、件の少女だけは目を覆い、宙に浮いて攻撃を躱していた。雷だから直撃を避け、地面から離れれば大丈夫というわけか。


 なんか、最近は当たり前のように空を飛ぶ連中にばかり遭遇しているな。


「その兵装、パシフィック社のマジックスキャナーか。なるほど。もうあの女が目をつけていたんだねぇ」


 この鍵はマジックスキャナーというのか。名前からして、魔法をスキャンできるのだろう。だが、魔法の使えない俺がこんな大魔術を使えたことの説明にはならない。


「フフッ、おもしろ」


 少女は不気味な笑い声を上げ、またしても斬りかかってくる。すぐさまマジックスキャナーが発光し結界が発動する。


「無駄だって」


 少女は結界ごと俺を蹴り上げた。くそ。この結界、衝撃吸収できないのか。まるでバルーンの中にいるような気分だ。

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