第12話 女神と悪魔

 レライエは弓に矢をつがえ、今にも放とうとしてくる。


「頼む、殺さないでくれ!」

 

俺の必死の懇願もむなしく、矢は放たれた。俺は思わず玲香さんからもらった鍵を前に向けた。

 

 青い光が奔る。

 

 ドーム状の結界が攻撃を防いでいた。だが、衝撃は伝わってきた。空中にいる俺はどこにも掴まることができず、地面に墜落した。結界のおかげで、どうにか地面に直撃するのは避けられたようだ。


「くっそ、なんなんだよ、これ」


「私の権能を狙う輩ですね。しかしまぁ、異世界からも私との契約権を求めてやってくるとは。私人気者ですねぇ」


 ガスパールが今頃になって顕現した。


「おいてめぇ。なんで契約解除できないんだよ!」


「私がしたくないからです。高貴なる女神の私が、あのような下賤な悪魔の言うことを聞くはずもないでしょう。嘘です。レーヴァテインとやらに憑りついても破滅するところが見られそうにないからです」


 くっそ、相変わらずの正直ぶりだな。


「いっそあの悪魔に殺されるあなたの顔を見るので我慢しようかと思ったのですが、それでは面白くありません。あなたにはもっと派手に破滅してもらわないと」


 ちょっと待て。ガスパールのこの願望は、ひょっとしたらうまく利用できるんじゃないか?


「だったらガスパール。俺が生き残れるように協力しろ。お前、予知能力使えんだろ」


「そうですね。こんなところで死なれても私が満足できませんし。何より私は、お金に狂って愚かな死に方をする人間が見たいだけですからね」


「じゃあ敵の詳細を教えろ」


「敵は武器商人です。通称レーヴァテイン。さっき攻撃してきたのはレーヴァテインと契約している悪魔、レライエです。争いを引き起こす力を持っています。実際、新宿の辺りは大変なことになっているみたいですね」


 ということは、さっき玲香さんが言っていた濃い血の匂いって、新宿で殺し合いでも起きてる所為なのか?


「あなたはレライエによって引き起こされた争乱に巻き込まれて死ぬ運命にありました。ですが、特別に私がレライエを引き付けてあげます。どうにかしてパシフィック社本社ビルまで逃げてください」


「了解した。後は頼む」


 俺は、東京都心に聳え立つバカでかい本社ビルに向かって走り出した。


「おっと、逃がしませんよ」


 レライエが追い付いてきた。弓矢でさらなる追撃を加えようとしてくる。


「さて、下賤な悪魔。いい話がある。お前の主人と契約してやる。案内しろ」


 ガスパールは相手が悪魔となるとあんな攻撃的な口調になるのか。


 俺とガスパールを交互に眺めたのち、レライエは口を開いた。


「いいでしょう。我が主、レーヴァテイン様のもとにご案内いたします、ガスパール様」


「気安く私の名を呼ぶな。悪魔ごときが」

 

レライエはガスパールと共に飛び去っていった。これで当面の危機は去ったな。問題は、本社ビルまで無事にたどり着けるかどうかだ。

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