第39話 雷山竜降臨

 パシフィック社から逃げ出してちょうど一ヶ月と一日経った朝。玲香さんと今後の作戦会議をしていると、玉座の間の扉が開いた。


「敵襲でございます。玲香さま」


 大して慌てる様子もなく、デネブが報告した。


「敵との距離は?」


「ご覧になった方が早いかと」


 白のテラスへ出ると、既に防護結界ギリギリのラインに軍用ヘリが駐機してあった。すると、降りてきた人物が大規模な魔法陣を展開し、結界を瞬時に消し去ってしまった。


 間違いない。リサ社長だ。


「ちょっと話してくる」


 玲香さんは飛翔し、リサ社長のもとへと向かった。


「なぁ、ガスパール」


「なんでしょう?」


 ガスパールの奴、今回はあっさりと顕現したな。


「やっぱ俺って、今日死ぬ運命なのか?」


「もしそうだったら言いますよ」


「だよな」


 今までも、死の運命が近づいているときは事前の警告があった。というか、それを受けるためだけにガスパールと契約している。なのに今回はそれがない。


「もしかして、ビビッてるんですか? あの女に」


「ビビらないわけないだろ。あの玲香さんを部下に従えてるような奴なんだぞ」


「キシシ、魔剣を手にしてなお恐れるとは、謙虚というか、用心深いというか……まぁなんにせよ、今日死ぬことはないのでご心配なく。ただ、」


「ただ?」


「あなた以外が生き残れるかどうかについては保証できません」


「そういうことか……」


 間違いない。


 リサ社長に歯向かえば命はない。だが俺は死なない。ということは、必然的に玲香さんかレヴァのどちらかが死ぬことになる。あるいは両方。


 それだけは避けなければ。


 俺はすぐさま玲香さんの後を追った。


「うっ!」


 やっぱりあの女だったか。


「一か月経ったな、藤堂英治。もう時間切れだ」


 軍用ヘリから降りてきたのは、リサ社長だった。


「今は世界最悪の武器商人にしてテロリスト、レーヴァテインを殺す絶好の機会。無害な人格が顕現しているうちに殺すしかない」


「待ってください。もう少しだけ……」


「そんな言い分は通用しない。速やかに私の部下がレーヴァテインを殺処分する」


 殺処分だと? まるで害獣駆除のような言い方をしやがって。それと今の彼女はレヴァだ。レーヴァテインではない。


「自分は手を汚さないつもりか」


 俺はせいぜいそんなことしか言い返せなかった。思うところは色々あったが、この女の威厳を前にしては、そうとしか言えなかった。


「一つだけ言っておくが」


 リサ社長を中心に烈風が吹き荒れる。魔力によるものだ。


「私の一分一秒は、お前のそれより遥かに価値が高い。時間の価値は平等ではないのだよ。貴様のようなわがままな雑魚に、無駄な時間を投資する価値などない。一か月も猶予を割いてやっただけありがたいと思ってくれ。以上だ。やれ、ヒュペリオン」


 冷酷に指示して踵を返し、リサ社長は立ち去ろうとする。


「待ってください!」


 俺は必死に叫ぶが、リサは無視し、ゲートを潜った。


 同時に、足元の地面が隆起し、ひび割れる。亀裂から出てきたのは、黒い岩肌だった。


 何が起きている? 去り際に大規模な土魔法でも放ったのか?


「英治くん、掴まって!」


 言われるがままに玲香さんの肩に掴まり、飛翔する。


「なんですか、この岩山みたいなの……」


「パシフィック社異世界部門の傭兵部隊長、雷山竜ヒュペリオンよ」


「竜? これ、生き物なんですか?」


 ドラゴンにしたって信じられないほどの大きさだ。


 そしてドラゴンが傭兵部隊長ってすげぇ会社だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る