第40話 魔人vs竜人

 玲香さんは城のテラスに俺を置き、例の三重防護結界を張って相手に向かっていった。


「邪魔ね。私はリサ社長に用があるのだけれど」


「裏切り者が。リサ様と口を利けると思うな」


「極大魔法【雷神招来】」


 玲香さんは返事もせず直径15mはある特大の雷球をぶつける。が、大して効いていないようだ。


「ま、【雷山竜】と呼ばれるくらいだし、雷耐性があるのは当然か」


「無駄撃ちだったな。谷川玲香。かつて《天上に神あり。ルーラオムに魔妃あり》と謳われた貴様とて、リサ社長の力と金の前には何もできまい」


「自分こそがその『リサ社長の力』とやらの担い手だとでも?」


「そうだが」


「傲慢ね。リサ社長はリサ社長だから強いのよ。部下がどうとか関係なくね」


「入社半年の新人が、デカい口を叩くな」


「でも役職的にはあなたと同格。口を利く権利くらいはあるでしょう?」


 すると、突然ヒュペリオンの巨体が消えた。空いたスペースに向かって、急速に空気が流れ込む。その中心には、一人の軍服の男が浮かんでいた。


「なっ」


 玲香さんは空中で体勢を崩し、人型に変身したヒュペリオンへ吸い寄せられていく。


「死ね」


 強烈な右ストレートが放たれ、玲香さんの鳩尾に風穴が開いた。


「【ファイアブレス】」


 次いで、火炎旋風と見紛うほどの特大の火柱が奔る。


「玲香さん!」


 俺は思わず叫んでしまう。あの玲香さんが圧されている? とんでもないことだ。これが生態系の頂点たるドラゴンの真骨頂というわけか。


「フフッ、これは久しぶりに、」


 だが瞬時に火炎は消え、絶大な魔力が場を支配する。


「愉しめそうだな。土魔法【重力渦】」


 ヒュペリオンは地面に叩きつけられた。


「局所的に重力を十倍にしてみた。いくらお前とて、人型に変身していては辛いだろう? 骨が軋み内臓が潰れる音がするぞ?」


 玲香さんはヒュペリオンの頭を踏みつける。さすがは魔王の血を受け継ぐだけある。傷は塞がり、火傷も瞬時に回復していく。いや、火傷で済むような威力じゃなかったはずなんだがな。


 ヒュペリオンは瞬時にドラゴン形態に変身し、離脱した。そして急接近する。


「【魔人化】」


「【竜人化】」


 お互い人型に変身しての殴り合いを始める。


 ただ衝撃音のみが伝わってくる。二人ともとんでもない速度で回避、接近、跳躍を繰り返しているようで、何が起きているのか目で追えない。


「拳技【風雪岩砕】」


「拳技【星砕き】」


 玲香さんの左鉤突きでヒュペリオンの鱗がひび割れ、剥がれ落ちる。


 だが同時に放たれた【星砕き】もかなりの威力のようで、玲香さんを彼方まで吹き飛ばした。

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