第41話 魔妃の本性

 いや、彼方というか、こちらへ向かって飛んできている。


 あまりの威力に玲香さんは壁を突き破って床にめり込んだ。それだけに留まらず、衝撃が魔王城内部を縦横無尽に走り、崩落させた。


「おい大罪人、貴様のせいで魔王城が半壊しかかっている。早くあの邪竜もろとも現世に戻れ」


 元老の一人がそんな要求を突きつける。そんなことできるわけがないだろう。現世に逃げれば、もっと多くの人々を巻き込んでしまう。


「それはできない。全員で一刻も早く防護結界を張ってください」


 玲香さんはそう依頼するが、元老たちは互いに騒ぎ立てるばかりで何も答えない。


「ちょっと! 事態は差し迫っているんですよ! 騒いでいる場合では……」


「うるさい。部外者は黙っとれ!」


 そうとだけ返された。


 全く、50人そろってこのざまか。無能もここに極まれりといったところだな。


「もういい」


 玲香さんは、さっきとはうってかわって冷淡な口調で告げる。


「お前たちにはもう、何も期待しない。私のために働けないのなら、その命で以て貢献しろ。私の血肉となり、私の力となれ」


「大罪人が今さら何を……」


 元老のうちの一人が侮蔑の言葉を投げかけるが、玲香さんは何も聞こえていないかのように無視する。


「【魔血接収】」


 玲香さんがそう唱えると、元老たちは爆散した。血しぶきが舞い散る中、肉塊と化した彼らは、全て玲香さんの身体に吸収されていった。しかし玲香さんの身体の体積は変わらない。50人分の肉体を取り込んだとは思えなかった。


「お前たちは何のためにいる? 何のために私の子孫として生まれた?」


 玲香さんは悪魔のように凶悪な笑みを浮かべる。


「こうして私の役に立つためだろう?」


 玲香さんを中心に凄まじい圧の魔力が吹き荒れる。


「自らの血族すら食糧扱いするか。この人でなしが」


 いつの間に人間形態で忍び込んでいたヒュペリオンが、不快感を露わにして詰る。


「人でなしはお互い様でしょう。私は人間でなく、魔妃なのですから」


 俺は戦慄を禁じ得なかった。


 元勇者パーティの冒険者? 魔王の妃? パシフィック社の最強傭兵?


 そんなものでは済まない。


 この人は、正真正銘のバケモノだ。


「行こうか、レディレイ」


 愛剣に語りかけると、目にも留まらぬ速さで抜剣し、水平に斬撃を繰り出した。


「おっと危ない」


 ヒュペリオンは屈んで避けた。


 玲香さんは次々に斬撃を飛ばすが、一向に当たらない。


「技は熟達しているが、それだけだ。あいにく、お前程度の武芸者なら、何人も屠ってきた」


「言ってくれるな。せっかく冒険者時代に磨いた技を披露してやっているというのに」


 玲香さんは剣を鞘に納める。


「まぁいい。お前には【冒険者らしくない】戦い方で挑むとするか」


 次の瞬間、玲香さんの身体は黒い硬皮に覆われ、角と翼が生えた。双眸は赤く光っている。


 魔人化か。だがさっきの魔人化とは、比べ物にならないほど濃密な魔力が溢れ出している。


 これが、同族すら食らい血肉に変える、力の権化。【ルーラオムの魔妃】の本性か。

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