　ダン！

　と左足を一歩踏み出した途端、凄まじい魔力が吹き荒れた。玲香さんのもの、いや、人間のものとは思えないほどの異質で濃い魔力を感じる。

　ヒュペリオンは僅かに狼狽えたようだが、すぐに獰猛な笑みを浮かべ、襲い掛かってくる。

「極大魔法【煌炎爆砕】」

　太陽と見紛うばかりの巨大な火球が顕現する。それはまっすぐにヒュペリオンに向けて落ちていく。ヒュペリオンは瞬時に腕をドラゴン化させ、弾き飛ばした。

　だがそのわずかな隙を突き、玲香さんはヒュペリオンの顔を殴り抜ける。首が１８０度回転したが、ヒュペリオンは一気に首を元の位置に戻す。

　だがその一瞬で十分だった。

「【暴王の咆哮】」

　闇を凝集させたかのような濃い黒紫の光線が走る。それはヒュペリオンの全身を消し飛ばして余りあるように思えた。

　が、奴は立っていた。ドラゴン形態に変身して。

「変身が間に合わなかったら危なかったかもな。だが、」

「黒雷八式【死棘】」

　今こそ全力を叩き込む時。そう考えた俺の口をついて出たのは、そんな詠唱だった。

　無数に枝分かれした大樹のように魔剣の刀身が広がっていき、まずヒュペリオンの両眼を貫いた。

「ぐっ」

　ヒュペリオンはわずかに苦悶の声を上げる。

　だが、これで終わりではない。直感的に分かってしまう。これは、魔剣による技の中でも、最も残忍な技だと。

　眼底でさらに枝分かれを始めた魔剣の刀身は、ヒュペリオンの脳を刺し貫き、ぐちゃぐちゃにかき回した。そして、次に来るのはおそらく、暴発。

　俺は魔剣を手放し、全力で後方へ逃げ去った。

　黒の大樹と化した魔剣の刀身は、制御が効かなくなり爆散した。当然、ヒュペリオンの脳も木っ端微塵だろう。外皮や鱗が硬すぎるので、中身が出て来ないことがせめてもの救いか。

「さすが。成長したわね、英治くん」

「玲香さんは、子孫を殺してまで奴に勝ちたかったんですか？」

「当然よ。私だってレヴァちゃんを守りたいし……」

「違いますよね？」

　ガスパールがいきなり割り込んできた。

「英治さんを連れて逃げることもできたはずです。あなたは、リサ・ヴェルクマイスターの戦力を削ぐ口実が欲しかっただけ」

　ガスパールは衝撃的な事実を口にする。だが、ガスパールが嘘を口にしたことは、今のところ一度もない。

「フフッ、本当にあなたには隠し事ができないのね。そう。私はただ異世界と現世、両世界を征服したいだけ」

　え。

　そうだったの？

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