第34話 魔王の血
轟音と衝撃波が襲い来る。俺はふるい落とされそうになるが、必死に玲香さんにしがみついた。
「逆行の権能を使いますか? そうすればパズズの時のように、すぐに解決しますよ」
ふと現れたガスパールがそんなことを囁いてくる。
「お前のことだ。どうせ裏の目的があるんだろ。いいか? 俺は魔剣の力に覚醒した。もう一人でも戦えるんだ。お前の権能に頼るつもりはない」
きっぱり断ると、ガスパールはまたニヤニヤと笑いだした。
「【裂空】をたまたま出せただけのあなたが? 魔剣の力で戦う? 無知とは恐ろしいものですねぇ」
「お前が何を知っているというんだ?」
だが、神ならば魔剣の詳細を知っていてもおかしくはないか。
「魔剣アルマースは荒れ狂う激流のようなものです。いつ暴走するか分からない。もっと技を安定して出せるよう習熟してもらわないと。私、あなたが死んでしまわないか不安です。嘘です。魔剣を暴発させて事故死だなんて、地味な死に方をしてほしくないだけです」
「こいつ……」
やはり俺が派手に破滅するところが見たいだけか。だが重要な情報は得られた。魔剣はしばらく使わないでおこう。
玲香さんはさらに高度を上げる。ダゴンによって湧き出した水は城壁を超え、街にまで浸水し始めようとしていた。ここは盆地な上にくぼ地なので、街の外まで水が拡散しないようだ。
「水魔法【凍山征河】」
玲香さんが詠唱すると、今にも城壁を超えようとしていた水は凍り付いた。これでしばらくは住民の心配をせずに済むな。
するとダゴンは、主人たるレーヴァテインとともにこちらまで飛んできた。すかさず玲香さんの顔面を殴り抜けようとするが、玲香さんは片手で受け止めた。
「分かっているぞ。貴様の権能は水流操作だけではない。水の持つ熱を自在に移動させられるな。第一に、周囲の水から熱を奪い広範囲を凍り付かせる技。第二に、奪った熱を一点に集め放出する【崩閃】。タネが割れれば大したことはない」
「……」
そういうからくりだったのか。
だが待て。
だとするとダゴンの手を掴んでしまっている玲香さん、血を凍らせられて死ぬんじゃないか?
と思ったが、杞憂だった。
「? ダゴン、何をしている? さっさとこの女を凍らせて……」
「魔王の血を前に、たかだか普通の悪魔の能力など通用しない」
ダゴンの死んだ魚のような目に、僅かに恐怖の色が浮かんだように見えた。そう思ったのもつかの間、目にも留まらぬ速さの右ストレートが入る。ダゴンは即座に頭部を吹き飛ばされ、消え去った。
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