第33話 第三の人格
丘の上から見えた城塞都市にたどり着くと、門番から水晶球に触れるように指示された。
「何です?」
「見ての通り、ここは魔王領と隣接した都市。人間に化けている魔族かどうか、この水晶で判別しているのだ」
なるほど。確かにそれくらいの警戒はしていて当然か。
となると、ここにいる全員がヤバイんじゃないか?
玲香さんは魔王の血が流れている。
レヴァは悪魔を従えている。
俺は魔王ハダルの力の象徴であるらしい魔剣の力に覚醒してしまっている。
全員アウトじゃねぇか。
「よし。濁っていないな。そこの女は通ってよし」
そんな心配をよそに、玲香さんは手早く水晶球に触れ、潔白を証明してみせた。なにか素性を隠す技術でもあるのだろうか。
《魔剣自体は闇属性魔力の塊にすぎないから、魔族の反応は現れない。レヴァちゃんも、パズズが封印されている以上、検査には引っ掛からないはずよ》
玲香さんが念話で教えてくれた。それなら一安心だが、なぜ玲香さんが引っ掛からなかったのかが気になるな。
俺も問題なく通過し、レヴァがおそるおそる水晶球に手を触れると、なんと水晶球はどす黒く濁った。
「な」
「え」
俺たちが呆気に取られていると、レヴァは邪悪な笑みを浮かべた。
いや、このかんじ、レヴァじゃない。レーヴァテインだ。
「油断したな。【魔妃】と小僧よ」
「あなたが管理者人格?」
玲香さんは一切の動揺を見せずに問う。
「いいや。【彼女】が表に出て来ることは殆どない。深層意識から我々を操っているだけだからな」
「あなたたちの、いや、【彼女】の目的は?」
「ガスパールとの契約権を奪取し、殖やした資産で以て現世を混乱させること。もっといえば、戦争を多発させることだ」
戦争が望みとは。リサ社長とは正反対の思想。通りで敵対するわけだ。
「つまり、我らが主は死の匂いをお望みだ。存分に愉しませよ、ダゴン」
レーヴァテインが宣言すると、半魚人が現れた。人型だが、顔は魚そのもので、全身が鱗に覆われている。これが今の人格と契約している悪魔か。
「……」
ダゴンは何も答えず、ただ両掌を地面に当てる。すると、水が湧き出した。まぁ見た目からして、水の悪魔か何かなのだろう。
だが、予想以上の質量が急速に溢れ出していた。
「英治くん、逃げるわよ。ここ、水没する」
返事をする間もなく玲香さんに抱きかかえられ、俺は飛翔した。
「貴様、人間に化けた魔族か!」
「ここで成敗してやる!」
門番の衛兵が槍を構え、レーヴァテインに向けて突進していく。が、瞬時に衛兵の身体は氷漬けとなり、赤黒いシャーベットのように崩れ去った。
「あれは……」
「水だけでなく氷も操れるのね。いや、そうじゃない。氷も水の三態の一つ。別の能力として考える方が不自然か」
「ダゴン、【崩閃】」
レーヴァテインがそうとだけ命じると、ダゴンの指先にオレンジ色の球体が形成されていた。凄まじい熱気をここからでも感じる。
「来るわよ。聖魔法【聖雷一閃】」
玲香さんが白雷を放つと同時に、ダゴンもオレンジ色のビームを放ち、両者は相殺された。
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