第32話 魔剣の覚醒

「一般人が装備して大丈夫なんですか?」


「大丈夫。聖剣にまつわる伝説なんて、いわばチャイルドロックみたいなものだから」


 元勇者パーティ出身な魔王の妃が言うのだから、信じていいだろう。


 俺は恐る恐る聖剣の柄に手をかける。


 すると、静電気のような衝撃が走った。


「うわっ」


 俺は思わず聖剣を落としてしまう。


「あーもう、何をやって……」


 聖剣を拾い上げ、俺と目を合わせた玲香さんは、驚愕に目を見開いていた。


「藍と緋のオッドアイ……ハダルと同じ……」


「え? 何を言っているんです?」


 俺が玲香さんの顔をのぞき込むと、玲香さんはハッとしたように飛び退いた。


「あなた、とんでもない力の持ち主かも」


「英治さん、目の色が変わってます!」


 レヴァに指摘されるが、確かめるすべがない。鏡なんて持ち歩いていないしな。


 っていうか、俺がとんでもない力なんて持ってるわけがないだろう。目の色が変わったくらいで大げさだな。


「まぁ次こそはちゃんと掴みますんで」


「ちょっ、うかつに触らない方が……」


 玲香さんが慌てて制止したときにはもう遅く、またしても俺の右手から静電気が走った。


 しかも今回はわりと強めだ。電流は流れ続けている。驚くべきは、その色が青白いものではなく、漆黒だったことだ。


「な、これは……」


「魔王ハダルの力の象徴。魔剣アルマースの黒雷ね」


「こくらい?」


「【黒い雷】と書いて【黒雷】。絶大な魔力を秘める不定形の魔力塊よ。剣の形をとることが多かったから、魔剣アルマースと呼ばれているけど」


 俺にそんな異能が備わっていたとはな。聖剣の聖なる魔力に反発するようにして、内なる闇の魔力が目覚めてしまったということか? そんな中二病患者の妄想みたいな異能に目覚められたら、俺の身がさらに危うくなるな。


 全く。


 俺は10億を守り通して呑気に暮らしたかっただけなのに、また厄介な要素が増えたな。


「すごいです! 何か技を出してみてください!」


 レヴァは目を輝かせて頼んでくる。


 そんなことを言われても、今目覚めたばかりの能力で技なんて出せるわけ……


「黒雷四式【裂空】」


 轟音とともに草原に雷が落ち、かなりの面積が黒焦げになった。


「あれ、なんで俺、こんな技知ってるんだ?」


 詠唱が自然と口をついて出てきてしまった。自動で脳内にインストールされる仕様だったのか?


「これで魔物退治は英治くんに任せても良さそうね」


「いや、玲香さんが【ひれ伏せ】って言った方が絶対効率的ですって」


 そんなことを話しながら、俺たちは魔王城へと歩を進めていった。

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