第31話 君の名はレヴァ

「その思い上がり打ち砕いてやる。我が聖剣の錆となれ、【ルーラオムの魔妃】」


 アラキエルは聖剣オートクレールを引き抜いて玲香さんに突撃していく。黄金の魔力の奔流が刀身を包み、地面を余波で削り取りながら向かっていく。


 だが分かってしまう。


 どんなにステータスを上げても、強い武器を装備しても、玲香さんの技の冴えの前では、何の意味もないことが。


 気付くと、アラキエルの身体は細切れにされていた。


 聖剣が宙を舞い、玲香さんの手に収まる。


「ほらね。やっぱりお前も、つまらない」


 玲香さんがオートクレールを手にすると、先ほどとは比べ物にならないほどの輝きが刀身を包み、閃光がアラキエルを消し飛ばした。


「ボンクラな勇者パーティの死体を取り込んだくらいで調子に乗るとは。哀れなスカベンジャーね」


 玲香さんは容赦なく嘲る。もうやめてやれよ。


「な、なんの騒ぎですか……」


 振り返ると、レーヴァテインが起きてしまっていた。


「あ、そのっ、これは……」


「ちょっとこの剣の性能を試していただけよ。ね? 英治くん?」


「え? あぁそうなんだよレヴァ」


 玲香さん急に声のトーン変わったな。さすがは400年以上生きているだけのことはある。対する俺はレーヴァテインをレヴァと呼んでしまった。慌てていたとはいえ、変なミスをやらかしたな。


「レヴァ? それって私のこと?」


「あぁ、そうだが……」


 レーヴァテインはしばらく不思議そうな顔をしていたが、急に顔を歪めた。次いで、頬を一筋の涙が伝う。


「ご、ごめん。名前間違えてしまって……」


「いえ、違うんです、これは……」


 レーヴァテインは両手で顔を覆いながら声を詰まらせる。


「嬉しいんです。レーヴァテインとして他の人格と一括りにされるんじゃなくて、私のことをレヴァと呼んでくれたのは、この私だけのあだ名で呼んでくれたのは、あなたが初めてです」


 意外だな。


 そんなことで喜んでくれるとは。


 だが気持ちも分からなくもない。


 残忍な他人格と記憶を共有していたのでは、いつ精神が崩壊してもおかしくはない。罪悪感に圧し潰されてもおかしくない。


「そうか。じゃあ君のことはこれからレヴァと呼ぶ。これからもよろしく、レヴァ」


「はい! 英治さん!」


「私のこともよろしく、レヴァちゃん」


「は、はい……」


 レヴァは本能的にヤバイと感じたのか、俺の後ろに隠れてしまった。俺の左腕にすがりついたままでいる。


「怖がらせちゃったかもね。ま、いいわ。英治くん、この聖剣あげる。あなた戦闘力は皆無なんだから、これくらい装備しておいた方がいいわよ」


「はぁ」


 俺なんかが装備してしまっていいのだろうか。聖剣って、相応しい資格を持つ者しか手にしちゃいけない気がするんだが。

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