第30話 遅咲きの中二病

 鉄棍が握られた右腕は斬り落とされ、鉄棍は玲香さんに奪い取られていた。


「見誤ったな、キメラ風情が」


 鉄棍で殴り抜けられ、アラキエルの頭部はスイカのように砕け散った。あまりに一瞬のことで、現実味が感じられない。


 というか、レーヴァテインがまだ寝ていて良かった。こんな光景、子供には見せられないしな。


「無駄だ。勇者アウレアよりも、現魔王のお前よりも、私の方が強い」


「何を戯れ言を……」


 アラキエルの頭部は瞬時に再生し、呻くようにしてそう返した。


「実際に取り込んだ魂に訊いてみたらどうだ? 勇者パーティは無能の集まりだったよ。アウレアは名誉にしか興味がなく、聖剣もまともに使いこなせていなかった。戦士バルカに戦術や戦略を理解する頭はなく、神官レギアはなんとも器用貧乏な男だった。私の技術と知略が無ければとっくに崩壊していたような出来損ないのパーティだよ」


 かつての仲間をそんな風に侮辱するなんて。いくらなんでもひど過ぎないか? それとも、単なる照れ隠しで、愛情と信頼の裏返しなのだろうか? などという希望は、次の一言で打ち砕かれた。


「奴らはただの踏み台だよ」


 聞き違いかと思うほどの侮蔑だな。


「剣術、徒手格闘、頭脳、魔法……どれをとっても、転生者たる私に及ぶ者はいなかった。私は幻滅したよ。だから何も期待しないことにした。奴らは魔王という最強生物に会いにいくための踏み台だと思うことにした。そして魔王ハダルと出会ったとき、私の渇きは満たされた」


 強者ゆえの、あるいは天才ゆえの苦悩というやつを共有できたとか、そんなところだろう。俺には縁のない話だが、なんとなく想像はつく。


「ハダルと私こそが真に生きる価値のある生物で、あとのボンクラどもは奴隷、いや、家畜と変わりないことを悟ったのだよ」


「フッ、随分と遅咲きの中二病ですねぇ」


 突然顕現したガスパールが茶々を入れると、玲香さんは腹立たし気に腕を振るった。ガスパールの頭部は凄まじい衝撃音と共に吹き飛んだが、すぐに再生した。


「おや、怒るということは図星ですか。ありますよねぇ、そういう時期。自分以外の人間が全てクズに思えるような時期。でも私、そういう人間が足元掬われて派手に破滅するところ、何度も見てきました。そして、」


 ガスパールは満面の笑みを浮かべる。


「そういう人間の末路は何度見ても飽きません!」


「私は破滅しない。お前が今まで見てきた数多の有象無象とは違う」


「そうでしょうか? 人間なんて皆大して変わらないものでしょう? あなただけが特別なんですか? でもまぁ、そんな定説を覆してくれるのなら、それはそれで面白いので良しとしましょう。今後の活躍に期待していますよ、谷川玲香さん」


 ガスパールはそうとだけ言い残して姿を消した。

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