第18話 時は金なり
次の瞬間には、風の刃が通り抜け、背後のビルが切り裂かれた。コンクリートが崩落する音がする。
だが俺の身体は、無事だ。
「な、何をした?」
パズズは驚き、風の刃をさらに放つが、俺に当たりそうなものだけ静止した。
いや、静止しているのではない。徐々に戻っている。そんな風に見えた。
「私の権能は共同主観性の創出と言いましたね?」
そういえば以前、ガスパールがそんなことを言っていたな。
「ですがそれは結果だけを見た場合の表現。私の権能の本質を表すのなら、時間操作です」
「時間操作……」
「『時は金なり』と言います。要は私は時間をお金に換えているのです。あなたが賢く運用するなり、高利貸しでも始めるなりすれば、一日5%の利回りで運用できた『可能性』があります。私はそんな無数にあるうちの一つの未来を選び取り、時間を進めることによって、毎日あなたのお金を殖やしていたのです」
よく分からんが、実はお金でなく時間に関する権能だったということか。
「時間操作できる対象は一度につき一つまで。今までは『あなたのお金』を対象とし、時間を『進める』操作をしていました。ですが、今回は、『敵の攻撃』を対象とし、時間を『巻き戻す』操作を行いました。ゆえに、あの風の刃はあなたに当たりそうになった瞬間から逆行します」
「なんだか分からんが、助かった。たまには役立つな、お前」
「キシシ、『たまには』ですって? 私は毎日あなたの資産を殖やしているというのに、随分な物言いですねぇ」
確かにそうだが、ガスパールは異常性癖疫病神なので、手放しで褒めたくはなかった。
こいつに気を許してはいけない。ガスパールは、俺が幸せの絶頂で破滅する様をみたいだけなのだろうから。
逆行した風の刃により、パズズの四肢は斬り落とされていた。
「レヴァ様、申し訳ありません。地獄で身体を回復させてきますのでお待ちください」
パズズの姿は霧消した。
「にしても考えましたね。多重人格なのをいいことに、本人以外の人格を悪魔との契約の代価にするとは」
ガスパールはレーヴァテインの顔を覗き込む。
「ひっ、殺さないで」
レーヴァテインは怯えている。さっきとはえらい違いだな。ガスパールの言う通り、今は別人格が顕現しているだけなのだろうか。
ひとまず脅威は去ったし、あとはパシフィック社に行くだけだな。玲香さんが目覚めるのを待とう。
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