第17話 風の悪魔

 一方、空中に逃げたレーヴァテインは、レライエの死を感じ取っていた。


「ちぇっ、もう終わりか。まぁいいよ。悪魔に魂を抜かれて死ぬというのも、乙だしね」


 次の瞬間、レーヴァテインの人格が『交代』した。


「え?」


 レーヴァテインは素っ頓狂な声を上げる。別人格の彼女は、高所恐怖症だからだ。


「きゃぁあああああああ! 助けてパズズ!」


「大丈夫ですよ」


 落下を始めたレーヴァテインの身体はふわりとした風に受け止められた。


「私めがついておりますから」


「離れないでよ、パズズ」


「えぇ、離れませんとも。レヴァ様」


 先程とはうってかわって、レーヴァテインは年相応に臆病な素振りを見せた。スーツを纏い、山羊のような角を生やした悪魔パズズからは、レヴァと呼ばれていた。

                 ◇

「まだいるわね」


 玲香さんは上を見上げて言った。


「え? まだなんかあるんですか?」


 これ以上の厄介はごめんだ。


「ちょっと行ってくる」


 玲香さんは飛翔し、高速で上空の何かに向かっていく。


 だが数秒後、降ってきたのは血と腕だった。


「え……玲香さん?」


 腕は黒く変色しており、地面を這いずり回る。やがてそれは飛び上がり、元の玲香さんの右肩に収まった。


 ちょっと待て。


 魔王の血を受け継ぐ者の再生力のすごさは分かった。だが、レライエを圧倒した玲香さんが一瞬で腕を落とされるなんて。相手は何者だ?


「作法を弁えるべきですね。【ルーラオムの魔妃】」


 眠っている少女を抱えた老紳士が下りてきた。スーツ姿だが、湾曲した角が生えているので悪魔だと分かる。


「また悪魔か」


 正直今日はもう勘弁してほしかったな。


「その通り。風の悪魔、パズズと申します」


「悪魔に好かれていますねぇ、あなた。実に、実に素晴らしいですよ。悪魔に魅入られるのは破滅者らしくて素晴らしいです」


 ガスパールはまたしても気色の悪い笑みを浮かべる。


「おい、俺は悪魔になんて魅入られないぞ。それと、魅入られているのはあのレーヴァテインとかいう奴だ」


「そうですかねぇ? それと、いいことを教えて差し上げましょう」


「なんだ?」


「数秒後、あなたはパズズに切り裂かれて死にます」


「なんだと?」


 これのどこがいいことなんだ。


 玲香さんは? 玲香さんはどうした?


 周りを見渡すと、玲香さんは気を失って地面に墜落していた。


 まずい。


 誰にも守ってもらえないじゃねぇか。


「さて、ガスパールの権能を我が主に捧げるため、死んで頂きます」


「待て待て待て。ガスパール、助けてくれ」


 疫病神で、全ての元凶たるガスパールに助けを求めるなんて納得いかないが、もう藁をも掴む思いで俺は叫んだ。


「いいでしょう。助けてあげます。こんなところで死ぬなんて可哀想ですしね。嘘です。私が愉しめないですしね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る