第2話 異常性癖女神

「分かった。お前が女神だということは認めよう」


「おぉ、私を信じてくださる気になったんですね」


「信じてないわ!」


 俺は鋭く叫ぶ。


 なにが信じるだ。『噓です。本当はあなたが派手に破滅するところが見てみたいだけです』なんて臆面もなく言ってきた奴を信用するわけがないだろう。


「ど、どうしてですか! 私はあなたを一週間後に破産する運命から救って差し上げたいだけなのです」


「いやいや、どうせ俺に金を殖やさせてからごっそり騙し取るつもりだろ。こちとら小学生の時から実質一人暮らししてんだ! なめんじゃねぇ!」


 ガスパールはしばらくキョトンとしていたが、すぐに不気味な笑みを浮かべた。


「キシシ、私が? 複利の女神たるこの私が、お金なんか欲しがると本気で思っているのですか? さっきやってみせたように、いくらでもお金を殖やせるというのに」


 ガスパールは不愉快な笑い声を上げ、恍惚とした表情で説明を始める。


「例えばですよ、あなたが10億円を元手に起業して大成功し、多くの社員を雇って、家庭も持って幸せに暮らしていたとします。そんな幸せの絶頂で、私が突然いなくなるのです。するとどうでしょう? 複利頼みになっていたあなたの資金繰りは瓦解。大勢の社員が路頭に迷い、あなたは借金取りに追われるようになる。あなたは日雇いの仕事。あなたの奥さんはパート。娘さんはまともな教育を受けられず、将来は身体を売る仕事に就く」


 想像もしたくない未来だ。そしていやに具体的に言ってくるので余計にムカつく。


「あぁ、なんて惨めなんでしょう! 私はそんな悲惨な人生に転落し、絶望する人間の姿を見るのが、大好物なんです! 高額当選者の大半は、大金を扱いきれずに破滅します。ですが、私は普通の破滅を見るのだけでは、物足りない体になってしまいまして」


 こいつ、どうかしてるなんてレベルじゃない異常性癖の持ち主だな。


「一週間で破産なんてもったいない。せっかく大金を手にしたのですから、もっと派手に、大規模に、多くの人に迷惑をかけて、破産してください!」


「お断りだ、ボケ!」


 俺はガスパールに掴みかかるが、ひょいと避けられた。こいつ、想像以上に身のこなしが軽いな。


「キシシ、人間はあるかもしれない未来の一つを提示されただけですぐ怒りますね。ま、そこが面白いんですけど」


 ガスパールは余裕の笑みを崩さない。


「まぁぶっちゃけると、あなたは三日後。株の信用取引の勧誘に引っかかり、20億の負債を抱えます。それで破産するんです」


「貴重な情報ありがとう。これで詐欺には引っかからずに済む。さ、出ていけ」


 これ以上ガスパールの話に付き合うのはごめんだ。本当か分からないし。何より聞いていて不快だ。

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