宝くじ10億当たった俺、1週間後に破産するらしい
川崎俊介
第1話 【複利の女神】ガスパール
「当たっていやがる……」
俺こと藤堂英治は、連番で買った宝くじの番号を眺めていた。
一等前後賞合わせて10億円。
俺には家族もいないので、全て俺のものになるというわけだ。
「人生あがったな」
実際そうだろう。これで一生遊んで暮らせる。必要最低限の生活費分だけ使い、堅実に運用し続ければ、働かずに済む。
いや、運用する必要すらない。ただただ貯金し続けておこう。いつ世界的恐慌が起こるか分からないしな。
一か月後、諸々の手続きを経て10億は振り込まれた。俺は0がたくさん並ぶ預金通帳を眺めて満足感に浸っていた。
「当選おめでとうございます!」
次の瞬間、女の声がする。振り返ると、奇妙なドレスを着た少女が立っていた。年代は俺と同じくらい。そして銀髪だ。
おかしい。ここはボロアパートとはいえ鍵はちゃんとかかるはずだ。どっから侵入してきた?
「なんだお前? 警察呼ぶぞ」
「無駄です。私の姿はあなたにしか見えませんから。精神異常者として処理されるだけですよ」
少女は部屋を勝手に歩き回る。
「金目のものは殆どありませんねぇ。あ、でもここに5000円札がありますね」
「おい勝手に触るな。なんだお前、泥棒か?」
「違いますよ。見てください。この五千円を私が握ると、ほら」
小銭の落ちる音がする。見ると、二百五十円分の硬貨が落ちていた。
「なんだ?」
「すごいでしょう? 1.05倍の金額に殖えました。これこそが、一日あたり5%の利率で資金を運用できる、【複利の女神】の権能です」
何を言っているんだ?
どう考えても予め用意しておいた硬貨をタイミングよく落としたとしか思えない。こんな手品とも言えない手品、誰が信用するか。
「帰ってくれ。お前の下らんいたずらに付き合っている暇などない」
俺は少女の腕を掴み、部屋からつまみ出そうとする。
「暇ならあるでしょうに。10億も当たったんですから」
確かに、もう働く必要がないなら、バイトも通学も必要ない。暇になるな。
「とにかく帰ってくれ」
「この映像を見ても同じことが言えますか?」
どういうからくりかは分からないが、部屋の壁には映像が映し出されていた。映像は、少女の指先から出た光によって映写されているようだ。
これも手品か?
だが衝撃的なのは、そこに映っていたリアルな俺の映像だった。似た俳優を使っているとかいうレベルではない。まさしく俺そのものだ。着ている制服もうちの高校のもの。だが制服はボロボロで、俺のいる場所は近くの公園の段ボールハウス。どういうことなんだ?
「ここに映っているのはあなたです。ま、見ての通り、ホームレスになったわけですね」
「どういうことだ? 俺はホームレスだったことなんてないぞ!」
「これは未来のあなたです」
少女は突拍子もないことを口にした。
「私は複利の女神、ガスパール。あなたを一週間後の破産から救うために来ました。嘘です。本当はあなたが派手に破滅するところが見たくて来ました」
「そこは隠し通せよ」
ツッコミを入れつつも、俺の頭は冷静だった。
派手に破滅するところが見たい? 俺の資産をさらに殖やさせて、そのうえで金をだまし取ろうというわけか。
面白い。神だか何だか知らないが、退散させてやる。
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