第3話 破滅の日

「仕方ありませんねぇ。ま、一週間を乗り切れたようでしたら、また来ますよ。キシシ」


 ようやくガスパールは俺の前から姿を消した。


 幻覚ではなさそうだ。奴が落としていった二百五十円は確かにある。まぁ、質の悪い妖怪にからかわれたとでも思っておこう。


 それから一週間、俺は家に引きこもり続けた。新聞の勧誘にすら出ないようにした。ちょうど夏休みだったので、担任が様子を見に来ることもない。バイトはバックレた。これは致し方あるまい。


 引きこもりニートと化して一週間をどうにか乗り切った。コンビニしか行っていない。だが当面の生活費が底をつき始めたので、さらなる引きこもり資金を下ろしに銀行へ向かうことにした。


 窓口に行くと何らかの金融商品を勧められる可能性もあるので、ATMで限度額まで引き出してやる。


 そう息巻いて銀行に入ると、奴の不快な笑い声が聞こえた。


「キシシ、どうやら引きこもって一週間をやり過ごしたようですね。ですが残念。ここであなたの運は尽きです」


「なんだと?」


 刹那、乾いた銃声が響いた。と同時にシャッターが閉まり、中に閉じ込められた。


「は? マジかよ」


 ここまでどうにか耐え忍んできたというのに、外に出た瞬間これかよ。


「残念でした。あなたはここで銀行強盗に見せしめとして殺されます。せっかく貯めた14億円も無駄になりますねぇ」


 ガスパールはニタニタと笑う。14億円? いつの間に殖えたんだ?


「それじゃあお前の欲求は満たされないんじゃないか?」


「そうですねぇ、もっと稼いで起業して人を雇って、家庭も築いたうえで、大勢の人を巻き込んで破滅してほしかったのですが、仕方ありません。私に戦闘力はありませんから」


 こいつ、ムカつくな。


「お前、未来が視えるんだろ? 敢えてこのことを言わなかったな?」


「未来とは、現在の行動を変えれば変わるものです。あなたが引きこもったことで、ホームレスになるというあなたの未来もまた変わったのです」


 前より悪くなってるじゃねぇか。クソ。どうする?


 銀行強盗が客の一人一人を拘束し始めたので、俺は黙り、心の中でそう叫ぶ。


 犯人グループはついに警察との交渉を始めたが、要求の逃走用ヘリの準備が遅いので、いら立っているようだ。


 挙句の果てには、こちらが本気であることを示すため、人質を一人ずつ殺していくと言い出した。


 案の定、俺が真っ先に選ばれ、銃口を向けられた。


「あーあ。せっかく14億貯めたのに残念。短い間でしたが、最後にあなたの惨めな顔が見られて、愉しかったですよ」


「クソ、来世で会ったら殺してやる……」


「見つけた。ガスパール」


 刹那、斬撃が通り抜け、銃を握る犯人の右腕とガスパールの下半身は切断された。

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