第4話 谷川玲香という女
鮮血が飛び散り、悲鳴が上がる。
すかさず仲間たちが俺に向けて発砲してきたが、銃弾は空中で静止した。
「な、なんだこれ……」
などと言っている間に、俺は長身の女に抱きかかえられ、シャッターを突き破って外に出ていた。一瞬の出来事だった。
「ガスパールに魅入られたのね。可哀想。あれは資産を殖やしてくれる代わりに厄災を引き寄せる。危ないところだったわね」
やはりガスパールは疫病神なのか。
「えっと、あなたは?」
「谷川玲香。呼び名は玲香でいいわよ」
見たところ同年代のようだ。気になるのは、うちの学校の制服を着ていることと、その黒髪の毛先だけ青いことくらいか。
「うちの……玲瓏学園の先輩?」
「そう見える? これでもあなたと同じ学年だよ? もしかして、友達少なくて知らなかった?」
これは地味に痛いところを突いてくるな。俺は学校ではぼっちだ。人間関係に興味を持てない。一週間引きこもったことで確信したが、俺は人と関わらなくても生きていけてしまう人間らしい。
「そうだ。友達は少ないというか、いない。同学年の、いや、下手したら同クラスの生徒の名前すら怪しいくらいだ」
「アハハ! そうなの。にしても君、すごいね。さっきまで殺されかかっていたのに普通に軽口叩けるなんて」
言われてみればそうだ。不思議と恐れを感じない。俺、案外肝が据わってるのかもな。
「さ、肩に掴まって」
「こうか?」
俺は右手で玲香さんの肩に手を置く。
「違う。両手で両肩に掴まって」
「はぁ」
言われた通りにすると、そのまま両足を掬われ、背負われた。まさか同い年の女子におんぶされるとはな。初めての経験だ。
「じゃ、飛ぶよ」
次の瞬間、玲香さんは当然のごとく飛び立った。
「え、ちょっと。飛んでる? うわぁぁぁぁぁぁぁ、落ちる落ちる落ちる!」
「なんだ。銃を向けられてもビビらないのに、高いところは苦手なんだ」
高い所は別に苦手じゃない。だが、他人に掴まって空を飛ぶなんて、怖くないはずがない。
そう抗議しようとしたが、あまりの風圧で口が利けない。目も開けられない。どんだけの速度で飛んでいるんだ?
「あらあら、人の下半身斬り落としといて逃げる気ですか? 相変わらず残忍極まりないですねぇ、谷川玲香さん?」
驚くべきことに、ガスパールは俺たちと並走していた。
ここはかなりの高さがあるうえに、俺たちは相当なスピードで進んでいる。それに追いついてくるとは、やはりこいつ神だったのか。
「くっ」
玲香は急降下し、近くのビルの屋上に降り立った。凄まじいGがかかる。気を失いそうになるが、何とか耐えた。
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