第5話 複利の権能
「また現れたわね、疫病神。人の破滅を見て愉しむのもいい加減にしなさい」
「私の趣味にケチをつけられる謂れはありませんねぇ。私が人を破滅に導くのではなく、私の権能に狂喜した人間が勝手に自滅していくだけです」
ガスパールは、またしても気色の悪い笑みを浮かべながら弁明する。が、その表情は僅かに寂しげだった。なぜそんな表情をする? 不思議だが、俺がそんなことを気にする必要はないな。
「そして、どうせ破滅してしまうなら、派手に破滅して私を愉しませてほしいと思っているだけです。私が自ら破滅に導くことはありませんよ」
「御託はいい。うちの社長があなたを殲滅対象に指定した。だから私はその命に従うまで」
「なぁんだ。あの女社長の言いなりになって動く狗に成り下がりましたか。かつて【ルーラオムの魔妃】と呼ばれ恐れられたあなたも、堕ちたものですねぇ」
ガスパールが大げさに嘲ると、ついに玲香さんは逆上し、剣を抜き放って斬撃を放った。だが、ガスパールは持ち前の身軽さで全て避け切る。
玲香さんのことなどまるで相手にしていないかのように振る舞い、徐々に俺との距離を詰めてくる。
「私の忠告のおかげで、あなたは信用取引を持ち掛けてくる詐欺師に騙されずに済みました。そこでさらに特典をお付けしましょう。私が一日5%の利率であなたの10億を運用してあげます。一年後には51京円になります。悪くない話でしょう?」
「いや、お前が詐欺師だろ」
そんなうまい話が転がってくるわけがない。大体一日5%なんて暴利で金が殖えるわけがない。そんなことは金融素人の俺でも分かる。
「じゃああなたの口座の10億が、14億に殖えていたことはどう説明するんです?」
「それは……」
「1.05の7乗は、約1.4です。つまりこの一週間、私があなたの10億を一日5%の利率で運用して差し上げたのです。もちろん、お試し期間ですから何も取りませんよ。これで、信じていただけましたか?」
ガスパールは俺の口座残高が記載された紙を見せつけてきた。
確かに、口座残高は一日ごとに漸増している。信じるしかなさそうだ。
「な、なぁ玲香さん。こんな魔法みたいなことってあるのか?」
いや、答えを聞くまでもない。高速飛行する女子高生など常識的にありえないんだからな。
「残念ながら、魔法は存在するの。これは魔法と違って、神の権能だけどね」
訊くんじゃなかった。
「その通り! 私の権能は共同主観性の創出。つまり、金を殖やすことができます。たとえ市場が成長していなくても、です。景気にかかわらず、私の利率は一定です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます