第6話 愚者の税金
「そんなうまい話があるわけ……」
「いや、あるんだよこれが。私の上司も、こいつに憑りつかれていたことがあるから分かるの」
「マジですか……」
そこは否定してほしかったな、玲香さん。
「あぁ、そうそう。あなたの上司、つまりパシフィック社CEO、リサ・ヴェルクマイスターがあれほどの資産を築けたのも、私の権能のおかげですよ」
「え?」
パシフィック社といえば、世界的総合商社だ。そして、そこのトップのヴェルクマイスター氏といえば、世界長者番付一位の大富豪だ。っていうかそんな有名企業に勤めてる玲香さん、一体何者なんだ?
「でもリサは堅実な女でしてねぇ。なかなか破滅してくれそうにないのであなたに乗り換えたわけです」
「チッ、高額当選者は軒並み悲惨な人生を送ることになるのを利用しようというわけね」
「その通り! 宝くじとはすなわち『愚者の税金』。あんなものに金をつぎ込む輩は総じてバカに決まっています。リサのように堅実でつまらない女ではなく、分不相応な金使いをする成金趣味のアホどもを釣るには、ちょうどいいシステムです」
「君、ガスパールの言うことに耳を貸してはダメだよ!」
いや、もう既にメンタルやられそうなんですが。宝くじだけが生きがいだった俺の全てを否定されたようにしか聞こえなかったんですが。
「お、俺は堅実に運用するつもりだ。お前の口車には乗せられないぞ、ガスパール」
「そ、そうだよ。確かに彼は宝くじを買うようなバカかもしれないけど、堅実に生きれば大成する可能性だってある」
「ぐはっ」
玲香さんにまでバカ呼ばわりされてしまった。もう俺のメンタルは完全崩壊した。
そうだよ。俺は宝くじという名の『税金』を払わされていた愚者ですよ。思えば、誰にも強制されていないのに毎週金を払って買い続けるなんて、滑稽だったよな。
というか、せっかく10億当てたのに、なんでこんなひどい目にばっかり遭うんだ? 幸せを夢見て買い続け、その夢がようやく実現したのに、なんでここまで言われなくちゃならない?
おかしいだろ。
宝くじだって立派な投資だ。リスクしかないが。
「これは俺の金だ! 誰が何と言おうと! 汗水垂らして稼いでないからって、お前らにどうこうされる謂れはない!」
俺は渾身の叫びを上げた。
「その意気よ! こんな邪神に騙されないで!」
「いや、玲香さん。助けて頂いたことには感謝してますが、あなたのことも信用したわけではないですからね!」
「え」
「アハハ! これは愉快。リサとは正反対の反応ですね。執着にまみれた実に人間らしい反応といえます。これだから人間に憑りつくのは止められない!」
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