第21話 多重人格少女

 だが今は疲れている。この話はまた今度聞くとしよう。

               ◇

 割り当てられた宿泊ルームに入ると、ガスパールが再び顕現した。


「あの女も相変わらずですね。私の趣味にケチをつけるだけでは飽き足らず、世界平和なんてご大層なものを実現しようとしているとは」


「別に世界平和云々は結構なことだと思うんだけどな。っていうかお前、過去に何やらかしたんだ? 相当な恨まれようだったぞ」


「あぁ。まぁあの女と私は馬が合いませんからね。世界平和なんて妄言、今時頭のおかしなテロリストですら口にしないと言ったら、急に怒って私を追い出したのです」


 あの社長にそんなことを言ったら確かにブチギレられそうだな。世界平和の実現を確信している様子だったし。


「お前のデリカシーの無さは、今に始まったことじゃないってわけか」


「心外ですねぇ、自分に正直だと言ってください」


「そんなことよりだ。お前と一緒に夜を過ごすのは嫌だ。さっさと出ていけ」


 俺はガスパールに向けて手を払ってみせる。


「おやおや、誰のおかげで自動防御システムを買えたと思っているのやら。ま、いいですが」


 ガスパールはようやく姿を消した。これでゆっくり眠れる。


 それにしても、今日は色々なことがあり過ぎた。


 銀行強盗に殺されかけてから玲香さんと出会い、セーフハウスを吹き飛ばされて逃げる途中、レライエ、レーヴァテイン、パズズに襲われた。


 それにしても、多重人格なのを利用して複数の悪魔に魂を売るなんて、チートすぎだろ。一体あといくつの人格が控えているのやら。


 そんなことを考えているうちに、俺は眠ってしまったようだ。気づくと朝だった。


 部屋まで運ばれてきた朝食をとると、また社長室に呼ばれた。


 そこには、全身拘束具を付けられた少女、レーヴァテインの姿がスクリーンに映し出されていた。


「今は睡眠薬で眠らせているが、パズズが復活すれば拘束を解いてまた攻撃してくるかもしれない。油断はできない状態だ」


 リサ社長は淡々と告げる。だが敵とはいえ、幼い少女のこんな姿を見ると、なんだか可哀想になってくるな。


「今殺せばいいのでは?」


 玲香さんが物騒なことを言いだした。


「それではダメだ。全ての人格を顕現させ、それぞれが契約している悪魔を殺さなければ、奴を無力化できない」


「面倒ですね」


 そこまでの手順を踏まなければならないとは。確かに面倒だ。

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