第20話 確定した未来の現実

「極大魔法【水精砕波】」


 刹那、巨大な水の壁が出現した。聳え立つそれは、巨大な水の塊の一側面に過ぎなかった。土石流、いや、津波ほどの質量がある。玉座の間のごとく広いこの社長室だからこそ為せる業か。


「おやおや、部下ともども殺す気ですか?」


 ガスパールが愉快そうにリサへ問いかける。


「私の部下なら、自分の身くらい自分で守れる」


 いや、無理なんですが。


 玲香さんの体力、とっくに限界迎えてるんですが。


「ハハッ、英治さん、今日と明日は現金殖えませんが、いいですね?」


「なんでもいい、助けてくれ」


「いいでしょう」


 ガスパールが返事をした途端、津波は静止した。いや、徐々に逆行している。さっきの『巻き戻す』時間操作か。


 津波は徐々に一点に集約されていき、やがてかき消えた。


「やはりその権能の使い方を前にしては、何をやっても無駄か」


「どうでしょうね? 一個ずつ試してみます?」


 ガスパールは余裕の表情で挑発する。


 リサは鼻で笑い、両手を下した。


「今回は見逃してやる、ガスパール。だが二度と私の前に姿を現さないと誓え」


「おや、敗北宣言ですか? あなたらしくもない。まぁいいでしょう。せいぜい世界平和とやらのためにあがいてみることですね」


「世界平和は夢ではない。確定した未来の現実だ」


「はいはい、いつもの決まり文句ですよね。分かっていますよ」


 なんか、やり取りだけ聞いてると仲良さそうだな、この二人。


 次の瞬間には、ガスパールの姿は消え去っていた。


「さて、そこの少女を捕縛しろ」


「え? いやぁぁあ!」


 泣き叫ぶレーヴァテインは注射で気絶させられ、黒スーツの男たちに連れて行かれた。


「今は無害な人格が顕現しているとはいえ、いつ凶悪な人格が現れるか分からない。パズズが戦闘不能な今のうちに拘束させてもらった」


「はぁ」


 だが12歳くらいの少女を拘束って、色々と問題がありそうだが。


「さて、本題に入ろう。我々パシフィック社はなにも、レーヴァテインやガスパールを討滅するために存在するのではない。さっきも言ったとおり、世界平和を実現するためにのみ存在する」


 一体何年かけて実現するつもりなのだろう。


「へぇ、すごい長期プロジェクトですね」


 さっき買った自動防御システムを全世界にばら撒いたりするのだろうか。


「いや、短期プロジェクトだ。一年以内に、この世界は強制的に平和になる」


「へ?」


 これはまた、話がデカくなってきたな。

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