第48話 別れ


               ◇

 気を失ったリサを縛り上げていると、バルタザールが歩み寄り、話しかけてきた。


「彼女は……ガスパールはあぁ見えて繊細な子だから……あなたが見守ってあげて」

 バルタザールはか細い声で語りかけてくる。


「でも、俺にはガスパールを救う力なんてありません」


「救えなくていいの。救わなくていいの。あの子の側にいてあげて。話を聞いてあげて。一緒に生きてあげて」


 バルタザールは、心の底から切実に願っているようだった。


「あの、ガスパールは過去になにが……」


 俺がそう問うと、バルタザールは人差し指を口に当て、そのまま消え去ってしまった。


 謎の多い女神だ。


「両世界征服は待ってあげるわ。リサ一人の侵攻を凌ぐだけでも、相当キツかったしね」


「玲香さん……本気でその目標を達成するつもりなんですね」


「そう。私は確実に両世界を獲るから。邪魔するなら無力化する」



 殺すと言わないだけありがたいといったところか。


「私だけ安全なところにいて、すみません」


 レヴァは申し訳なさそうに言った。


「ガスパール、俺にはもうお前の未来予知は不要だ。契約は解除する。もう5%で運用しなくてもいいぞ」


「そうですか。では、あなたは残った約15億円で悠々自適に過ごすといいでしょう。幸い、私の未来予知にもめぼしい災難は引っかかっていませんし」


「そうか。それは良かった」


「でも私、あなたのことはとても気に入っていたんですよ。死に様が見られないのが残念。またお金に困りましたら、いつでもご用命ください」


 ガスパールは相変わらず気色悪い笑みを浮かべて言う。


 だが、答えなど決まっている。


「お前と関わるのなんて、二度とごめんだね」


「あら残念」


「でも、」


「でも?」


「俺は【複利の女神】でなく、ガスパールには用がある。俺が、お金の要らない世界を創れるかどうか、見届けてくれないか?」


 俺はやっぱり救いたいのだ。ガスパールという女神を。女神だとか、多くの人を破滅させてきたとか、関係なく。


 ガスパールは呆れたようにこちらを見つめてきた。


「……もう、本当に、バカな人……」


「え? 何か言ったか?」


「いいえ何も。あなたが【お金の要らない世界】とやらを築こうとして派手に破滅するところ、是非見てみたいです! これからもあなたの頑張りを全力で嘲笑していくので、よろしくお願いします」


「チッ、相変わらずの畜生ぶりだな。まぁいい。お前に思い知らせてやるよ、宝くじに当たっても、破滅するどころか大事を成し遂げる人間がいるってことをなぁ!」


「やれるものならやってみてくださーい」


 そう煽ってきたガスパールの表情は、いつもの気色悪い笑みではなく、実に晴れやかな笑顔だった。

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宝くじ10億当たった俺、1週間後に破産するらしい 川崎俊介 @viceminister

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