第9話 ルーラオムの魔妃
パシフィック社の手配したセーフハウスに逃げ込んだ俺たちは、ひとまず昼食を取った。
俺は疲れたので寝た。
起きると、玲香さんがシールドのようなものを展開して俺を護ってくれていた。
「この状況で寝られるって、やっぱ肝が据わってるわね、君」
玲香さんは、口調こそ穏やかだったが、呆れているようだ。
「仕方ないでしょう。せんべい布団で寝るのが常だった俺には、こんなフカフカのベッドの誘惑には耐えきれません。まして、こんな色々なことがあった日じゃあ尚更です」
「確かに。今日は色々あったわね。疲れて当然か」
「そうですよ。あと一か月は引きこもっていたいくらいです」
「そ。まぁここには私の部下が食糧や日用品を運んできてくれるから、当分は引きこもっていても問題ないわよ」
俺と同い年で部下を率いる立場にあるのか。しかも世界有数の大企業たるパシフィック社で。一体何者なんだ。玲香さんは。
「あの、玲香さん。ちなみにご出身はどちらで?」
「異世界のルーラオムというところよ」
「へぇ、ルーラオム」
その異質な響きからして、本当に異世界の地名なのだろう。というか、異世界の存在をナチュラルに受け入れてしまっている俺、すげえな。
「最初は私と旦那しか住んでいなかったんだけど、今では私たちの子孫が50人ほど住んでいるの」
「え」
子孫が50人? どういうことだ? 数年で子孫を残せる年齢にまで成長する種族なのだろうか?
「へぇ、玲香さんはその、成長が速い種族なんですか?」
俺は精一杯ファンタジー脳を働かせ、そんな推論を導き出す。
「いや、私もう432歳だから。十五代後まで子孫がいるのよ」
予想の斜め上だったな。
「玲香さん、エルフとかそんな感じの種族だったんですか? 2000年くらい生きて、それでも見た目は殆ど歳とらないっていう」
「いや、私は人間よ。ただ、魔王の血を飲んだから、普通の人間より長生きできるってだけ」
「へ、へぇ」
魔王の血を飲んだということは、魔王を倒したってことだよな? それにしても、悪魔の血を飲むとは、なかなかにクレイジーだ。
「魔王ハダルは私の夫でね。私が寿命で死ぬのは惜しいからって、血を飲ませてきたの。でもそのあと勇者に討伐されちゃってさ。結局一緒には生きられなかった。あ、勇者はもちろん私がきちんと殺したけどね」
うーん、倒したのは魔王じゃなくて勇者のほうだったか。既に常識が崩壊した俺でも話についていけないな。
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