第24話 生きる価値のない人間

「レーヴァテインは殺させない。他に何か方法があるはずだ。この娘は連れて行く」


 俺は震える手でレーヴァテインを抱き寄せた。


 背後には半壊したパシフィック社本社ビル。そこから逃げるように走り去ったのだが、一向に追手がくる気配はない。どうやら本当に一か月は猶予を与えられたようだ。


「え……私を、守ってくれるの?」


 レーヴァテインは戸惑いを隠せないようだ。


「英治くん何考えてるの! リサ社長を敵に回すのは世界を敵に回すようなものよ。逃げ切れると思ってるの? このままじゃあなたまで殺されるわよ」


「自分でもなぜ助けたのか分かりません。だけど、目の前に見過ごせない理不尽があって、自分に少しでもそれを覆す力があるなら、動くしかない。そう思っただけです」


 玲香さんは呆れたようにため息をついた。


「ま、そういうことあるわよね。私も昔は異世界で冒険者やってたから分かるけど。身体が勝手に動いちゃうみたいなこと」


「分かってくれますか」


「許容したわけじゃないけどね。仕方ないから、あなたの護衛は続けるわ」


 そんな中、ガスパールが再び顕現する。


「短絡的な思考ですねぇ。せっかく10億手に入れたのに、自ら死のリスクを背負い込むこともないでしょうに」


 ガスパールは嘲笑する。相変わらずの畜生ぶりだ。


「助けてくれてありがとうございます。でも、早く私から離れたほうがいいですよ」


 レーヴァテインは不安げな表情でこちらに忠告する。


「なぜ?」


「レーヴァテインの『管理者』人格はずっと私を消そうとしてた。戦う意思がない私は、『管理者』人格にとって邪魔でしかないの。だから私を助けようとしても無駄。どうせ使い捨てられるから。それに、」


 レーヴァテインの無害人格は一瞬悲しそうな顔をした。


「私は、私の身体は多くの人を殺してきた。レーヴァテインの『管理者』人格に、良心と呼べるものはない」


「確かにそうかもしれない。でも、それで君が消えていい理由にはならない」


「あなたはどうしてそんなことが言えるの!」


 レーヴァテインは急に大声を出した。


「私の身体には残忍な人格がいくつも宿っているの。直接殺した人間も、間接的に殺した人間も数えきれない。私に生きる価値なんてないの!」


 これには俺も絶句した。


 確かに、レーヴァテインがどれほどの悪事を成してきたのか、俺は知らない。そんな他人格と記憶を共有する彼女が、一体どんな思いで生きてきたのか、俺は知らない。


 無責任、いや、短絡的に『助ける』などと口にしてはならなかったのかもしれない。

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