第44話 久々の現世
かくして、俺たちは久しぶりの現世に足を踏み入れた。
「ゲフッ」
やっぱり異世界と比べると、空気が汚いな。
「パシフィック社関連のサービスは使えない。自動防御システムはもちろん、関連企業にに近づくことすら危うい。パシフィック社の関連会社には外食チェーンもあるから、うっかり入らないよう注意が必要ね」
久々の現世ということで、ファミレスの味が恋しかったところだが、コンビニで我慢するしかないか。
そんなわけで、コンビニおにぎりで軽く夕食を済ませ、飛行機のチケットを三人分確保しに行った。ゲートは決まった場所にしか開けないらしいので、普通に移動手段は必要になる。
なにも闇雲に逃亡しようといううわけではない。アテはある。
世界最高の精神科医と呼び声高い、カルロ・ズルツァー博士。彼ならレヴァを治せるのではないかと期待したまでだ。
「ズルツァー氏は法外な値段の治療費を要求することで有名ですが、この一ヶ月間でもあなたの現金は増え続けていました。現在約45億円です」
4倍に以上に殖えるとは。さすがは複利の権能だ。
「45億あれば、一生遊んで暮らせますよ? レヴァちゃんなんか放っておいて、どこかで隠居生活すればいいじゃないですか」
ガスパールは身も蓋もないことを言ってくる。
「そうだな。それが合理的だ。だが、人間とは非合理なものだ」
「知っていますよ。人間が理屈に合わない行動をすることくらい。敢えて確認したんです。そういう合理的に生きられない人の方が、派手に破滅してくれそうですしね」
ガスパールは相変わらず気色悪い笑みを浮かべた。
◇
泊まっていた高めのホテルから空港に来るまでは何も起きなかった。だがそれが逆に不安だ。
「パシフィック・エアラインとかないですよね?」
空港のソファで、俺は不安になって訊く。
「あるわよ。ただし、リサ社長のパシフィック社とは無関係だけどね」
「そうですか」
話題がなくなり、気まずい沈黙が流れる。
「ずっと気になっていたんですけど、玲香さん、どうして谷川玲香と名乗っているんですか?」
「え? 名乗っているも何も、これが本名だからよ」
でも確か玲香さんって400年生きてるんだよな。時代で言ったら江戸時代初期に異世界転生したことになる。その割には現代的な名前だ。
「まさか玲香さん、本当は俺と同世代?」
「私の制服、コスプレかなにかだと思ってたの? 違うわよ。まさしく今年、2021年6月に、私は416年前の異世界に転移した。そしてそこで冒険者登録して、転移ボーナスを活かして勇者パーティに入った。そこから先は前に話した通りよ」
前に話した通りというと、勇者パーティの面々が使えなくて、さらなる強者を求めて魔王城へ出向き、魔王の妃となったところまでか。
いや、さらに続きがあったな。勇者アウレアを殺し、その何百年か後にアラキエルに謀叛を起こされ、魔王城を追放されたのだ。
「アラキエルに謀叛を起こされたのもつい最近だったんですか?」
「そうよ。ここ半年の出来事。その直後に、異世界への事業拡大を計画していたリサ社長に拾われて、晴れて現世に戻れたってわけ。ゲートを開く魔法は、そのときリサ社長に教わったの。あの人、どんな魔法でも使えるから」
どんな魔法でも、か。
想像以上の難敵と考えた方がいいだろう。
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