第九話 助けてスズえもん……
というわけで深雪と今夜も添い寝をすることとなった俺だったのだが、実際にいよいよ寝るという段階になって急に怖くなってきた。
さすがに妹で変態トロフィーを出すのは人生終わる気がする。
そう思った俺は救いの手をとある知り合いに伸ばすことにした。
『え? ほ、本当ですか? それは大変なことになりましたね……』
深雪を部屋に残して一階リビングへとやってきた俺は鈴音ちゃんに電話を掛けていた。俺からすべての事情を聞いた鈴音ちゃんは、イヤホン越しに「う~ん……」と悩むように声を漏らす。
『このままだと深雪ちゃんが暴走しちゃう可能性があります……』
「だ、だよな。さすがに妹と一線を越えるのはマズいと思うんだ。できることならば深雪には道を外れて欲しくないし」
血のつながりがない説が浮上してきたとはいえ、俺にはやっぱり深雪は妹でしかないのだ。そりゃ油断したらトロフィーの一つや二つ飛び出すかもしれないが、兄として翔太と同じ轍を踏むわけにはいかないのだ。ここは是が非でも自制心をたもたなければならない。
鈴音ちゃんはまたしばらく考えるように黙っていた。が、ふと彼女は俺に『せ、先輩って確か小型のブルートゥースイヤホンを使ってましたよね』とそんなことを俺に尋ねる。
「ああ、使ってるよ。というか今も使ってる」
『これから部屋に戻ってからも通話を切らないでいてくれますか? イヤホンは片耳だけ付けて髪で隠してください』
「え? 別にいいけど……そんなことしてどうするの?」
『私が先輩に指示を出します。先輩が道を外れそうになったら、私の指示に従ってください』
と、そこまで言われて俺はようやく彼女の意図を理解した。どうやら彼女の言う通りにしておけば、深雪の誘惑に惑わされることなく自制心を保つことができるらしい。
かくして俺は通話を繋げたまま自室へと戻ることにしたのだが……。
「ごめん、ちょっと翔太のソシャゲのアドバイスをしてた」
そう言って部屋に戻ると深雪はみぃちゃんを抱きかかえたままベッドに潜り込んでいた。
「私、怖いからおにいの部屋に来たのに、一人にされたら意味ないじゃん……」
と、彼女は少し拗ねるように唇を尖らせる。
『か、かわいい……』
と、その直後、俺の耳元でそんな鈴音ちゃんの声が聞こえてくる。どうやら彼女にも深雪の声は聞こえているらしい。
『せ、先輩……私もっと近くで深雪ちゃんの声聞きたいです。私には見せない甘々モードの深雪ちゃんの声を私にももっと聞かせてください』
と、耳元で鈴音ちゃんの興奮気味の声が聞こえる。
あ、あれ? もしかして俺、相談する相手間違えたんじゃ……。と、そう思わなくもなかったが、とりあえず彼女の言いつけ通り、ベッドへと歩み寄ると、深雪が掛け布団を捲ってぽんぽんとマットレスを叩くので、そこに俺も仰向けで寝そべった。
深雪は俺の腕にしがみつくと、二の腕に自らの胸を押し当てくる。妹とはいえ育ち盛りの胸を押し当てられた俺は思わず頬が熱くなるのを感じた。
ダメだ竜太郎……相手は妹だぞ……。
と、そこで俺は気がつく。薄暗い天井からつららのように何やらトロフィーのような形をした何かの先端がにょっきりと顔を覗かせていることに……。
ああよくないよくないっ!! そ、そうだ母の顔を思い出せっ!!
俺は母の顔を思い出すことによって、気持ちをできる限り性とは真逆の方向へと持っていこうとする。
「慣れてるはずなのに、今日はなんだかドキドキするね……」
と、深雪が言うので、俺は仰向けになりながらもちらっと深雪を見やると彼女は俺の耳元に唇を寄せて、恍惚とした瞳を浮かべている。
あぁ……やばい……鈴音ちゃん助けて……。
とは思うものの、当たり前だがそんなこと言葉にできるわけもなくただ黙っているしかない。そして鈴音ちゃんは沈黙を続けていた。
そこで深雪は俺の掌に触れた。
「おにいの手……冷たいね……」
「ま、まあ、俺は冷え性気味だからな」
「私があっためてあげる」
そう言うと彼女は俺の手を掴むと自分の内腿の上に乗せ、もう一方の腿で俺の腕を挟むようにしてがっちりホールドしてくる。彼女の暖かい太ももがじわっと俺の冷えた手を暖める。
「クスッ……おにいの手、冷たくてくすぐったい……」
と、深雪が笑ったその時だった。
『先輩……私、やばいです……』
と、耳元で鈴音ちゃんがそう言った。
『なんだか開けてはいけない扉を開いちゃいそうです……。血のつながっている妹と禁断の関係……ああ、ダメです……』
どうやらこの変態女は、俺にアドバイスを送るどころか、この状況を楽しみ始めているようだ。そこで俺は完全にアドバイスを求める相手を間違えたことを確信する。
と、そこで深雪はふたたび俺の耳元へと唇を近づける。ちらっと彼女を横目で見やると、彼女は何やら悪戯な笑みを浮かべている。
「おにい……私、知ってるんだよ……」
「知ってる? なにが……」
「おにい、ベッドの下に鈴音ちゃんの制服隠してるでしょ?」
「なっ!? そ、それは……」
「この間、おにいと一緒に寝てたとき、なんだかベッドの下から鈴音ちゃんの匂いがしたから気になってこっそり覗いたの。そしたら、紙袋から鈴音ちゃんの制服が出て来たよ? なんで、おにいが鈴音ちゃんの制服持ってるの?」
と、何故だか嬉しそうに俺にそんな追及をしてくる深雪。俺は正直心停止しそうだった。もちろん、その理由は深雪に俺の変態的趣向が完全にバレていること。そして、そのことがバレたことを鈴音ちゃんにも聞かれていることだ。
「あ、あれはだな……」
考えろ竜太郎。深雪を納得させられる言い訳を必死に考えるんだ。
「おにいって変態だったんだね」
が、そんな深雪の言葉が一気に俺の思考を停止させる。
「おにいは鈴音ちゃんの制服を持って帰ってきて何に使うの? おにいは鈴音ちゃんの匂いが好きなの? じゃあ匂いはもう嗅いだんだ。それとも私も知らないようなもっと変態的な使い方があるの?」
ああ、やばいやばい。深雪の口撃に俺は石のように固まってしまう。
鈴音ちゃん……助けて……。
『せ、先輩……』
と、そこで鈴音ちゃんが俺を呼ぶので俺は息を吹き返す。そして、彼女のアドバイスを待つ。
『せ、先輩……私の制服何に使ったんですか?』
Wパンチっ!!
どうやら俺の敵は二人いるらしい。イヤホンの奥で変態少女は少し息を荒げながら興味津々にそんなことを尋ねてくる。
「おにい、何に使ったの?」
『先輩、何に使ったんですか?』
ああ、ダメです……。僕、死んじゃいそうです。両耳からの口撃に俺の頭がぺちゃんこにつぶれてしまいそうだ。
「そ、それはだな……」
と、半分死んでる俺はそこでようやく、苦し紛れの言い訳を思いつく。
「それはだな……実は深雪に秘密にしていたんだが、最近、俺、イラストの練習をしているんだ。それで女の子の制服の構造が知りたくて悩んでたら鈴音ちゃんが貸してくれたんだよ。言っておくけど、変なことには使ってないからな」
と、苦し紛れの言い訳を口にする俺。が、意外にも深雪は「え? そうなの?」と驚いたように目を見開いた。それと同時にイヤホンからは「ちっ……」と舌打ちが聞こえた。
おいっ!!
「おにい絵なんて描いてたんだ。言ってくれたら私の制服も貸してあげるのに」
え? マジかっ!?
と、一瞬思ったような気がしたが、すぐに自制する。
「だけど、制服だけじゃなかなかイメージ沸かなくない?」
「は? どういうことだよ」
「ほら、制服の皴とか、ブラウスの襟の感じとか実際に制服を身に着けてみないとわかりづらいこともあると思うし……」
深雪はそこまで言って何故か頬を真っ赤に染める。
「わ、私が着てみてあげようか? 鈴音ちゃんの制服……」
「は、はあっ!?」
「ほら、私って鈴音ちゃんと身長も近いし。さすがに鈴音ちゃんほど胸は大きくないけど、それでも少しはイメージがわきやすいかなって思って……」
「いや、でもあれは鈴音ちゃんの借り物だし……」
と、そこまで言ったところでイヤホンの向こうから『私は気にしないですっ!!』とすかさず鈴音ちゃんの後押しのような声が聞こえてくる。
深雪は立ち上がるとぴょんとベッドから降りた。そして、ベッドの下を覗き込むとエルフローレンの紙袋を引っ張り出した。
「じ、実はね……鈴音ちゃんの高校の制服可愛いから前から着てみたかったんだ……」
深雪は制服を取り出すと何やら羨ましそうに鈴音ちゃんの制服を眺める。
『か、可愛い……』
と、そんな深雪の言葉に変態女も反応した。深雪は頬を染めたまま俺を見やると「おにいちょっと着てみてもいいかな?」と首を傾げた。
「いや、着てみるってここでか?」
深雪はコクリと頷く。そう言うと彼女は再び布団の中に潜り込むと、パジャマを脱ぎ始めた。そして、鈴音ちゃんの制服を布団の中に入れると、器用にそれを身に着けてバサッと掛け布団を捲った。
お、おお……。
目の前に現れた鈴音ちゃんの制服を身に着けた深雪の姿に思わず、俺は何かを触発されそうになる。彼女は恥ずかしそうに後ろ手を組むと、俺から顔を背けたまま「ど、どうかな……」と俺に感想を求めてきた。
「ま、まあ悪くないと思うぞ……」
と、答えると彼女は「ありがとう……」と小さく答えた。
と、その時だった。
『せ、先輩……イラストの参考にするためには写真を撮らなきゃダメですよね?』
「はあっ!?」
突然、そんなことを言いだす鈴音ちゃんに俺は思わず声を漏らしてしまう。そんな俺に深雪は「お、おにい?」と首を傾げるので俺は慌てて「な、なんでもない」と答える。
どうやら変態女は自分の制服を身に着けた深雪の写真がご所望らしい。
が、さすがに親友の妹の制服を着た妹の写真撮影は、いろいろと変態が過ぎる。が、一度変態心に火の付いた鈴音ちゃんの暴走は止まらない。
『イラストの資料にするからって言って写真を撮ってください……』
いやでも……。
『先輩、これは先輩の官能小説のために言っているんです』
いや、どう考えてもお前の性癖のためだろ……。
『撮ってくれなきゃ私……先輩のこと二度となでなでしないです……』
「っ…………」
と、なでなでを盾に俺に撮影を要求する鈴音ちゃん。
なでなでお預けは……我慢できない。
「み、深雪……」
「い、いいよ……」
と、俺がスマホを片手に彼女の名を呼ぶと、全てを察した深雪が頬を赤らめたまま頷いた。
「写真……撮りたいんだよね?」
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