第13話 一緒ならどこでも楽しい♪

 秋も深まり、空にはうろこ曇が現れる。

 うろこ曇が見られると近いうちに雨が訪れると言われているが、今日は空気も澄んだ、穏やかな天気だ。

「天気が良くて、よかったね」 

「しゅうかくの、秋だぁ」

 今日は、芋掘り体験の日。

 ジーンズに、スニーカー、パーカースタイルという、汚れても良い服装に着替える。


 電車で約2時間ほどで、農園に到着。

「ようこそ、農業体験の方だね。芋掘りのスペースはこっちだよ」

 農家のおじさんがにこやかに案内してくれる。

 畑には、沢山のさつまいもの苗がびっちりと埋められている。

 小学生くらいの小さな子どもを連れた家族が、楽しそうに土を掘り返している。

 畑に入ると、自分の重みで柔らかな土にどんどんと足跡がついていく。

 うぱまろは、歩くたびに土に埋もれそうになっている。


 おじさんに、スコップと軍手を渡される。

「芋掘りは、毎年やってるの?」

「いえ、小学生の時以来ですね」

「じゃあ、久しぶりだねぇ。この子も?」

 おじさんはうぱまろを不思議そうに見つめる。


「うぱぁ、初しゅうかく!」

 嬉しそうにジャンプする。

「この子に、収穫体験させてあげたくて連れてきました」

「そうかい。じゃあ、まずは芋掘りのコツをレクチャーするね」

 おじさんは、苗の一つの葉を摘まむ。

「この、赤っぽい蔓と葉っぱがさつまいもだよ。ここに植えておくと、一つの苗から、3~5個のさつまいもができるんだ」

 おじさんは、軍手をはめて、スコップで土をすくう。

「土を掘るときは、優しくね。よく、蔓や葉っぱを引っ張る人が多いんだけど、あれだとポキッと蔓だけ折れちゃうからね」


 「大きなかぶ」の話みたいに、昔、絵に描いたように蔓を力いっぱい引っ張ってた自分を反省。

 おじさんがスコップで土を掘ると、さつまいもの姿が現れた。

「ある程度まで掘れたら、今度は軍手をはめた手で直接さつまいもを取り出すんだ。ずっとスコップだと、芋が傷ついちゃうからね。分からなくなったら、聞いてね」

 大きなさつまいもを取り出し、私に渡すとおじさんは次の家族の案内に向かった。


「ためになったね、うぱまろ。じゃあ始めよう…ってええ?!」

 うぱまろは、おじさんが掘ったさつまいもがあった位置に、おやつで渡したドーナツを植えようとしている。

「おじさん、ここに植えるとぉ、増えるって!」

「さつまいもは増えるけど、ドーナツは増えないの!」

 うぱまろは悲しげに私のウエストポーチにドーナツをしまった。

「おいもよりぃ、すいーつ、増やしたいのに」

「さつまいもも、おいしいスイーツになるから」

「かたい、おいもがぁ?」

 信じていないような目で土を掘るうぱまろ。

 出会ったときは、生のゴボウを喜んでボリボリ食べていたが、すっかり舌が肥えてしまったようだ。


 しゃがんで、掘って、取り出してを繰り返すと、結構体力を消耗する。

 運動不足の私にはこたえたが、嫌な疲労感はなかった。

「みてみてぇ、砂風呂ぉ!」

 うぱまろが土に埋もれて、頭だけ出している姿に思わず吹き出す。

 ぽん、と、うぱまろは土から飛び出した。

「え?!」


 うぱまろの飛び出した穴から、モグラがひょっこり顔を出していた。

「まてぇ!」

 うぱまろはモグラに向かって進むと、モグラは穴に戻るので、うぱまろもその穴に飛び込む。

 モグラが、別の穴からひょっこりと顔を出す。

 うぱまろも、それに続く。

 モグラは、また別の新たな穴から顔を出す。


 次第に、子ども達が集まってくる。 

 うぱまろは、土まみれで茶色くなってしまった。

「見て、モグラたたきだ!」

 子ども達が顔を出すうぱまろに近づいていこうとするので、慌てて止める。

「もぐら、じゃないよぉ!うぱぁだよ!」

 うぱまろは、ぴょこんと、穴から飛び出す。


 泥だらけになったうぱまろを水で洗い流し、丁寧に拭き取ると、本来のピンク色の姿になった。

「今日は、楽しめた?」

 農家のおばさんが収穫したさつまいもをビニール袋に入れながら尋ねる。

「はい、帰ってから食べるのが楽しみです」

 これで、スイートポテトを作ってあげよう。

「おいも、スイーツに、なるのぉ?」

 うぱまろは私の話が信じられなかったのか、おばさんにも聞いている。

「とびきりおいしいスイーツが、丁度できあがってるよ」

 おばさんに案内されると、焚き火に人が集まっている。


 新聞紙の上に置かれたアルミホイルの固まりを渡される。

「触れるくらいにはなったけど、熱いから、気をつけて」

 そっ、とアルミホイルを開くと、こんがり焼けたさつまいも。

焼き芋だ。

 焦げた皮を少し剥き、黄金色の部分をうぱまろに食べさせる。

「うぁぁ!あまいぃ!すいーつだ!」

うぱまろは、ぴょんぴょんと小躍りしている。


 濃厚で、優しい味わいだ。

 バターや生クリームたっぷりのお菓子も美味しいけれども、自然の甘さも負けてない。

「おいも、おそるべしやつだぁ!」

 うぱまろは焼き芋を独り占めしようとしている。

「うぱまろだけずるい!私も食べる!」

 私達を見て、農家の夫婦は嬉しそうに追加の芋を焼いている。


 スポーツの秋、読書の秋、芸術の秋。

 あぴ子とうぱまろにとって、当然のごとく食欲の秋が最優先されたのだった。

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