第9話 大輪の花を君に捧げよう❤️
今日は、花火大会。
昼下がりの午後、私はクローゼットから浴衣を取り出す。
紺の生地に、赤い牡丹の浴衣。
馴れない着付けに戸惑いながらも、ようやく黄色の飾り帯を着けるところまで完成。
鎖骨まで伸ばした黒い髪をまとめ、浴衣とお揃いの牡丹の花飾りをのせる。
ピンク色の小さな巾着に、最低限の荷物を入れ、下駄を履いて外に出る。
「まつりといったら、こりぇだよね」
うぱまろの頭にも白字に青い水玉模様の鉢巻きを巻く。
ひょっとこみたいでおもしろい。
下駄をからん、ころん、と鳴らしながら、うぱまろと共に出掛ける。
花火大会の会場に到着。
笛や太鼓の、賑やかで心躍る音色が聞こえる。
会場には、まだ早い時間にも関わらず、赤、青、黄、緑、黒、オレンジ、ピンク……色とりどりの浴衣姿の人達で華やいでいた。
お腹の空くような香ばしさを鼻で感じると、近くで焼きそばを売っていた。
屋台は、かき氷、たこ焼きや焼きそばなどのメニューから、トルコアイスといった変わり種までバラエティー豊富だ。
「うぱまろは、どれ食べる?」
うぱまろは辺りを見渡すと、金魚すくいの屋台を発見し、プラスチックの金魚が泳ぐいけすにダイブする。
「おさかなぱーりー☆」
ぼちゃん、と派手な水しぶきが上がる。
「うぱまろ! それ食べ物じゃない!」
いけすからうぱまろを抱えて取り出す。
「おいおい、金魚驚いてるだろうよぉ」
扇いでいたうちわを放り出し、金魚すくい屋のおじさんが呆れ果てている。
「ごめんなさい!」
必死で謝る。
おじさんは苦笑いしながら、うぱまろをホースから水を出して洗い、清潔なタオルで水しぶきを拭き取る。
「しょうがないな、おい、詫びにちょっと働いてきな。娘がやってる店なんだけどさ。おーい、ヘルプ見つかったぞ!」
隣店の、綿菓子を作る、ショートカットの元気のいい女性が振り向く。
「パパ、サンキュー!……この子がヘルプ?新種のウーパールーパーかなぁ、かわいい!よろしくね♡」
丸い大きな機会の中央に、女性が砂糖を入れると、だんだんと周りに白い雲が作られる。割り箸でくるくると回していくうちに雲は大きくなり、ふわふわの綿菓子作られる。
作られた綿菓子を、手際よく袋に詰めていく。
「じゃあ、お手本通りやってみます」
私が砂糖を受け取り、綿菓子を作ると女性はうぱまろにも声を掛ける。
「こっちの子は綿菓子作るのは難しそうだから、これをお客さんに渡してね!」
「この子もやるんですか?!」
「合ったり前じゃない!」
女性は、威勢の良い声を張り上げる。
「かわいー、かわいー、ウーパールーパーの綿菓子屋だよ!」
周りの人達は、ウーパールーパーの綿菓子という言葉に反応してだんだんと集まり、この店に行列が出来ていく。
うぱまろは次々に綿菓子を渡していき、そのたびに撫でられたり、ぷにぷにとつつかれたりしている。
「お陰で、すごい繁盛したよ!お礼ね☆」
巨大な、虹色の綿菓子をプレゼントされる。
「わたあめぇ、フィーバー☆」
わたあめに包まるようにしながら食べているうぱまろ。
「お仕事、お疲れ様」
綿菓子を食べ終わり、砂糖でべたつくうぱまろを再び水で洗い流し、ハンカチで拭き取る。
日が堕ちると、賑やかさはいっそう増してきた。
盆踊りが始まると、お囃子の音は盛り上がる。
歌に合わせて、やぐらの周りを浴衣姿の人達が楽しそうに躍る。
「うぱぁ、たのしーなぁ!」
うぱまろは、人と人の間を小さな体で器用に潜り抜け、やぐらに向かってのそのそと歩く。
「うぱまろ、待ってよ」
急いで追いかけ、やぐらの近くの盆踊りの輪に向かう。
踊りの輪に加わるのかと思ったら、早くもうぱまろは、やぐらをよじ登り始める。
やぐらの中央、お囃子の演奏舞台に突撃している。
「みんなぁー?盛り上がってりゅー?」
うぱまろは太鼓の上に乗り、ぼん、ぼん、と太鼓がなるたびに振動で軽くジャンプしている。
「うぱまろ!そこにいたら、花火見えないよ!降りてきて一緒に見よう!」
私はやぐらの中央に向かって呼びかける。
「はなび、みりゅよぉ!」
やぐらから、ぴょんと飛び降りるうぱまろをキャッチする。
ぼとっと落ちなくて良かった。
ひゅっ、と、花火が空に向かう音がする。
背の低いうぱまろでも楽しめるように、腕に抱える。
ぱらっ、と、小さな花火が何発かはじける。
「はなび、きれぃだねぇ!」
「どんどん、大きく、派手になるよ。模様がきちんとでる花火だってあるからね」
花火は、次々と打ち上げられ、大きな音を響かせ、咲き誇る。
おおっ、と歓声が聞こえる。
赤いハート模様、黄色の星型の花火。
猫、犬といった、動物の花火。
周囲から、話し声が聞こえる。
「今回の花火師は、模様に力を入れているんだって」
「毎回、ラストに一番、思いの込められた花火を打ち上げるよね。今回は何を打ち上げるんだろうなぁ」
四つ葉のクローバー。
虹。
夜空に捧げられる、大輪の花々。
小さな、かわいらしい小花もたくさん打ち上げられる。
ラストも近い。
一瞬、空に明かりが消える。
静まり返る周囲。
花火の打ち上げられる音。
最後に打ち上げられたのは、大きな、ウーパールーパーの花火だった。
「えっ、うぱぁの、時代、きたー!」
口笛や、歓声の嵐が巻き起こる。
祭りの夜は、まだ永い。
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