第14話 君の笑顔に一等賞❤️

 テンポのよい音楽と、軽快なアナウンス。

 相反して、うつ伏せの身体は足元がずっしりと重い。

 目は覚めているのに動けない。

 毛布の足元から、重みは腰、背中へと移動する。


「ねぇねぇ。お外、たのしそ!行こうよぉ。」

 重みの正体は、うぱまろだった。

「もう少し…寝る…」

 毛布を頭から被ると、毛布のなかにうぱまろが入る。

 うぱまろの顔がドアップに映る。

「わー!分かったから!」

 しぶしぶと身仕度を始める。


 賑やかなイベントの正体は、近所の小学校の運動会だった。

 紅白帽子を被った子ども達が、楽しそうに競技に出たり、応援したりしている。

「赤と白の、戦いぃ!どっちが勝つぅ?」

 うぱまろは見ているだけでとても楽しそうだ。


 アナウンスが流れる。

「次は、4年生による、『探し人・物レース』です!カードに書かれた内容のものを校庭内から探して、一緒にゴールインする競技です!では、よーい…」

 ピストルの音が鳴る。

 生徒達が、一斉に走り、カードを拾う。

 それぞれが書かれた内容のものを必死で探し出している。

 ある生徒は、「赤組の2年生の女の子」。

 別の生徒は、「白組の応援団のポンポン」。

 見つけた順に、次々とゴールしていく。


 観客席に、目を輝かせて白組の男の子がやってくる。

「これ、借ります!」

 男の子は、「かわいいぬいぐるみ」というカードを持っていた。

 うぱまろは連れ去られてしまった。

「あぴ子ちゃんー!」

 叫び声をあげたうぱまろを連れた男の子は無事ゴールインした。


 プログラムは次々に進んでいく。

 棒引き、ダンス、玉入れ…。

 うぱまろは参加したくてウズウズしているが、「運動会は生徒達のためのものだから」となだめた。


 アナウンスが聞こえる。

「次は1年生による、『お父さん、お母さんと仲良く!大玉転がし』です!」

 赤、白の大玉を親子で押して、コーンを回って戻ってくるというルールだった。

 赤組のツインテールの女の子の泣き叫ぶ声が聞こえる。

「何で、パパ、ママ、来ないの?」

「パパとママはお仕事なんだって。先生と一緒に出よう?」

「みんなパパやママなのに。先生となんて、やだ」

 担任の先生らしき女性が、必死に言い聞かせるが、泣き止まずにぐずっている。


 うぱまろは女の子のもとに歩いていく。

「うぱぁ、これ、やってみたいんだぁ」

 女の子はうぱまろを見てきょとんとしている。

 私はしゃがみこみ、女の子と目線を合わせる。

「一緒に、参加しよう」

 飼い主としてうぱまろだけを参加させる訳には行かないし、この女の子の運動会を、楽しい思い出にしてあげたい。

「うんっ!」

 女の子は、うぱまろを抱えてにっこりと笑った。


 ようやく女の子の番になる。

 赤色の、直径150センチ程の大玉が目の前にある。

 小学校の頃は、この大玉がとてつもなく大きく感じたが、今では自分の背を軽く超えていた。

「うぱまろ、それルール違う!」

うぱまろは、大玉のてっぺんにちょこんと乗っている。

「見晴らしがぁ、いいねぇ!」

 私を見下ろし、得意顔になっている。

 パン、とピストルが鳴り、競技が始まる。

「せえのっ!」

 大玉を、女の子と2人で押していく。

 変な方向へ行かないように、気をつけつつも、早く走って前へと進む。

 コーンの折り返し地点を曲がろうとしたところで、後ろから声がする。


「見つけたぞ!」

 振り返ると、以前声をかけられた、ガラの悪いスキンヘッドの男がスタート地点から追いかけてきている。

 こんなところまで、私を諦めきれなくて追ってくるなんて。


「わわー!」

 うぱまろは飛び上がっている。

「うああああん!顔が怖い人が追いかけて来る!」

 女の子は怖がり、全力で走って大玉を進ませる。

「は、速い、待ってぇぇ」

 女の子においていかれないように、私も負けずに走る。

 うぱまろは落ちないように必死に手足をパタパタさせて、定位置を保っている。

 大玉がコーンにぶつかり、衝撃で吹っ飛んで走るスキンヘッドの足元へ。

 スキンヘッドは、コーンに躓いて勢い良くひっくり返る。 

「何だ?!」


 構わず、女の子はどんどん大玉を押す。

「怖い人、もういなくなったのかな?」

 背の低い女の子は大玉に隠れて見えないだけで、転んだままのスキンヘッドの男は大玉の先にいる。

 大玉はスキンヘッドの身体に衝突する。

「うわっ!痛ぇ!」

 大玉が反動で弾かれる。

 体格の良い、恐らく生徒指導であろう怖そうな男性教師がやって来る。

「一般の方は、競技に乱入しないでください!危険です!」

 スキンヘッドをグラウンドから追いやった。

「もうすぐゴールだよ!」

 紙テープを破り、私達の赤い大玉は一番でゴールした。


「うぱまろ、おねぇちゃん、ありがとう!」

 女の子はきゃっきゃっと嬉しそうだ。

「うぱぁ、楽しかったよぉ」

 うぱまろの背中には、折り紙で作った金メダルが乗っていた。

「すごく早いね、びっくりしちゃったよ」

「だって、リレーの選手に選ばれたんだよ!頑張って走るから、見ててね」

 女の子が赤い鉢巻をポケットから出したので、頭の後ろで結んであげた。

「行くね!」

 手を振って、女の子はリレー選手の待機場所に向かって走る。


 号砲が、遠くで鳴った。

 赤い鉢巻が、リボンのように風に靡く。

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