第16話 嫉妬しちゃうな
ピンポーン。
インターホンを鳴らす。
「あぴ子ちゃん、うぱまろちゃん、いらっしゃい☆」
はむっちが、満面の笑みを浮かべて出迎えてくれる。
「はむっち、今日はお招きありがとう」
「寒かったよね?今、お湯沸かすね。あぴ子ちゃんはコーヒーより紅茶だったよね」
「うん、紅茶でお願い。これ、良かったら一緒に食べよう」
「えー!ありがとう、何だろう?うあぁ、かわいいショートケーキ♡ありがとう!」
はむっちの部屋に入ると、立派な祭壇が掲げられていた。
昔から大好きなミナト君の祭壇。
缶バッジやミニポスター、ポストカード等の歴代のコレクションが並べられている。
「旬だった輝かしい時代から、今に至るまで、ずっと集め続けてるの!」
はむっちはポスターに保護カバーをかけたり、缶バッジをケースに入れたりと、本当にキャラグッズを大切にしている。
「1つひとつに、彼との思い出がつまっているの!」
はむっちは、お茶を淹れながら夢中で話す。
「できたよ☆」
ダージリンの香りにつられて、ひょこっとうぱまろは顔を出す。
「スイーツにはっ、濃いめのおちゃだねぇ」
はむっちは、苺柄のティーカップに、お揃いのお皿にケーキを乗せて登場した。
「おやつにしよう。みなたんにもあげなきゃ」
「みなたんはやっぱりひまわりの種?」
「うん、でも、実はひまわりの種って、ハムスターにあげすぎると良くないんだ。ケーキみたいなご褒美感覚なんだよね」
「し、知らなかった……!」
はむっちは、ミナト君祭壇の隣にあるケージに近付く。
「うぱまろちゃんはお初だね。ハムスターのみなたんだよ❤️」
愛らしいジャンガリアンハムスターが、ちょこちょこ動いている。
「は、はむぅ?!」
うぱまろはみなたんを見てよだれを垂らしている。
「うぱまろ……まさか……ハムスターのハムって響きから、生ハムを想像した?」
みなたんは、食べられるかもしれないという恐怖を感じ、ケースの端っこで小さくなっている。
みなたんにひまわりの種をあげるはむっち。
おいしそうに、もきゅもきゅと食べる。
「早く私達も食べよう…ってうぱまろちゃん、もう食べてる!」
うぱまろはてっぺんのイチゴを皿の端っこに大切にとってある。
「うぱぁ、すきなのは、さいごっ!」
ケーキを幸せそうに頬張り、ピロピロは元気良くなびかせている。
「もう、うぱまろったら!勝手に食べちゃだめでしょ!」
「あぴ子ちゃん、お母さんみたい!」
はむっちは、無邪気に笑っている。
ケーキを食べていると、からからと音が聞こえる。
みなたんは、回し車を楽しそうに駆けている。
「うわー、かわいい!」
「でしょ☆ハムスターにとって、これは大事な運動なの」
「昔、私もハムスター飼いたかったんだよね。回ってる姿、癒されるわぁー」
うぱまろはその言葉に反応したらしく、のそのそとみなたんのケージに近付くと、顔をべったりと着けて張り付いている。
バスケットボールより少し小さいくらいのサイズのうぱまろと、ジャンガリアンハムスターのみなたん。
みなたんからしたら、相当迫力あるだろう。
みなたんは動きをぴたりと止める。
「うぱぁもぉ、これ、まわしゅ!」
うぱまろは、ケージを開けようと奮闘している。
「わー、だめだめ!うぱまろがこんな小さな回し車なんか乗ったら壊れちゃうってば!」
「うぱぁ、これ、やりたい!やりたいぃ!」
うぱまろはゲージから離れないので、無理やり引き剥がすが、またしてもゲージに向かおうとする。
うぱまろは、意外と頑固な性格だ。
こうなったら、撤退するしかない。
「はむっち、みなたん怖がらせちゃってごめん。うぱまろが興奮しちゃったから、そろそろ帰るね」
「分かった。こっちこそ、うぱまろちゃんを刺激させちゃったみたいでごめんね」
バタバタと暴れるうぱまろを鞄に押し込み、はむっち宅を後にする。
家に着き、鞄を空ける。
「うぱまろ、落ち着いた?」
「ぷんっ!」
機嫌悪そうに鞄から飛び出し、洗面所の方へ向かっていった。
回し車できなかったからって、そんなに怒らなくてもいいのに。
私はうぱまろをあえて追いかけず、溜まった家事をすることにした。
洗剤を投入し、洗濯機を回す。
台所のシンクを磨く。
棚の埃をとる。
やることは、沢山だ。
単純化な家事をこなすうちに、だんだん冷静になる。
掃除機をかけながら、うぱまろに対して無意識に傷つくようなことを言ってしまったと後悔が生まれる。
自分のペットのいる前で他のペットを飼いたかったなんて言うなんて。
洗濯機が、洗濯終了の合図を知らせる音楽が聞こえる。
洗濯物を干し終わったら、早くうぱまろに謝ろう。
洗濯物を取り込みに洗面所に向かう。
違和感に気が付く。
洗濯物を、乾燥機に入れようと思ったが、すでに乾燥機の不穏な音が聞こえる。
今、乾燥機が回っている訳ないのに。
まさか…。
「うぱぁの、回し車ぁ☆」
起動されている乾燥機の中には、うぱまろが楽しそうにぐるぐる回っている。
「うぱまろぉぉぉ!干からびちゃうよぉ!」
急いで「止」スイッチを押す。
乾燥機は、ゆっくりと動きを止まる。
「たのしかったぁ」
扉を開け、うぱまろを取り出す。
不思議にも、うぱまろはいつも通りのもちっとした肌触りをしている。
「小さい頃、ハムスター飼いたかったけど、小さい頃の話、なんだからね。い、今は…」
うぱまろに気持ちを伝えようとするけれど、急に恥ずかしくなった。
「うぱぁ、生ハムの気分だぁ☆」
うぱまろは今日も冷蔵庫を目指して、のそのそと歩く。
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