第31話 ドキドキを共有しよう!

 ゴールデンウイーク最終日。

 丸の内有名ホテル、最上階のティーラウンジ。

 いつもより、少しだけよそ行きな白いワンピースを着て、はむっちとアフタヌーンティー。


「あぴ子ちゃん、かわいいっ!」

「はむっち、今日も素敵☆」

 はむっちは黒ワンピースで、髪をアップにしている。

 高層ビルや庭園の贅沢な景色を見渡していると、すぐにオリジナルブレンドの紅茶やアフタヌーンティーの3段スタンドが運ばれる。

 スタンドの一番上には、イチゴをふんだんに使った春らしい小さな色とりどりのケーキ達。

 二段目はスコーン、味は桜と抹茶。

 三段目はハムやスモークサーモンのサンドイッチ。

「うあぁ、お姫様になった気分!」

「たまには、こんな贅沢も必要だよね☆」

 きゃっきゃっと夢中で写真を撮る。

 

「そういえば、リアルの話してもいい?」

 はむっちが前置きをするのは、大切なことを言うときだ。

「いいよ、話して」

「この前ね、中学の同窓会で10年ぶりに再会した人が気になってて」

「ええ、いいじゃん!どんな人?」

「パティシェさんだよ!中学時代はほとんど話さなかったけどね。すっごく優しくて!今度デート行くんだ」

 はむっちはにこにこしながら話す。


「パティシェさんかぁ、良い感じになったらケーキ差し入れてよ。結婚式、彼がウェディングケーキ自分で作っちゃったりして!」

「もうっ、あぴ子ちゃんったら!結婚式なんて!」

 はむっち、顔真っ赤にして話しててかわいい!

 やっぱり、二次元相手でも三次元相手でも、恋してる女の子って魅力的に見える。

「あぴ子ちゃんは、最近は良い出会いあった?」

「良い出会いかぁ。ちょっと長くなるんだけど、実は……」

 セイ君のことをはむっちに相談する。合コンで出会ったこと、うぱまろを診てくれたこと、ストーカーやひったくり被害にあったときに助けてくれたこと。


 全て聞き終えたはむっちは、目を輝かせている。

「それ、すごいよ、あぴ子ちゃん!まるで小説みたいな話だね。しかも、あぴ子ちゃんと同じ『ポーカー探偵☆エクスプレス』のファンだなんて!」

「それがね、『ポーカー探偵☆エクスプレス』の話題をふっても、反応がイマイチで。何でだろう」

 うーん……と、はむっちは少し考える。

「私が考えられるのは、2つかな。1つは、アニメの話をするのが抵抗あるのかなって。ほら、あまり熱を込めて話すと嫌われちゃうかもとか考えちゃったり?」

「確かに……!私も、タマキさん好きなことを普段は秘密にしてる!はむっちもアニメ好きだし、仲良いから話せるけど、数回しか会ったことのない人なら言えないかも!」

 二次元歴の長い私の大先輩、はむっち様……さすがベテランは違います!

「2つめは、アニメ関係で出会ったのがすっごーく似ている兄弟。双子とかね。これは、セイ君に直接聞けば解決じゃないかなぁ?」

「兄弟……!それなら似てるよね。聞いてみよう!」

「あと、食事だけだとどうしても話ベタなど人だと緊張しちゃうから、水族館とか、遊園地とか、体験教室で何か作ったりとか!一緒に何かやるのもいいかもね☆」

 景色も紅茶も忘れて、はむっちとのガールズトークに花が咲く。

 

 帰り道、早速セイ君のいる動物病院に寄る。

 インターホンを鳴らすと、セイ君のお父さんらしき60代の男性が現れる。

「あ……こんにちは……」

 セイ君が出ると思っていた私は、気まずくて黙ってしまう。

 メッセージして行けば良かった……!

「診療、じゃないのかな。ひょっとして、セイ君のお客さん?」

「はい」

 すっかり同様してしまい、少し俯いて答える。

 男性は笑顔になってセイ君を呼ぶ。

「セイ君、お客さんだよ。女の子!」 

 階段から降りる音がし、セイ君が現れる。

「病院の診療時間も終わったし、上がってもらう?」

 男性はセイ君に話しかけるが、セイ君は顔を赤くしながら首を振る。


「ゆっくりしていってくださいね」

 男性は片手を振り、笑顔で診察室に消えていく。

「セイ君……ごめんなさい。てっきり、1人で住んでるかと思って……」

 セイ君は、赤い顔のまま俯きながら話す。

「いいんです……。どうしましたか?」

「その、この前はありがとうございました。良かったら何ですけど、またどこか出かけませんか?」

「……僕で良かったら」

 顔を覆いながら話すセイ君。


「どこか行きたいところ、セイ君はあります?例えば、遊園地とか、水族館とか……」

「遊園地がいいです。雨が多少、心配ではありますが晴れていたら……」

 即答するセイ君。

「台場の遊園地『エンジョイ☆パラダイス』なら、室内だから雨でも大丈夫そうですね!」

「あの……あぴ子さん……」

 申しわけなさそうなセイ君。

「僕、絶叫系とか、射撃系とか、そういう類いのもの、苦手なんですが……運動音痴なのもあるのですが……子どもの頃の記憶ですが……それでも良ければ……」

 運動音痴?

 秋葉原のあの動きを見ている限り、そんなこと無さそうだけれどな。


「全然、大丈夫ですよ!一緒に楽しみましょう!」

 セイ君は安心した様だった。

「では、来週土曜日、15時に台場の『エンジョイ☆パラダイス』でお願いします……緊張してしまうので、うぱまろさんもご一緒だと嬉しいです」

 深々とセイ君は御辞儀をした。

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