第32話 知れば知るほど分からないっ☆彡
台場「エンジョイ☆パラダイス」にて。
入場券を購入し、薄暗いゲートを潜ると、カラフルな光の点滅する非日常的な空間が広がる。
入ってすぐの中央のステージでVRのアイドルが踊ったり、歌ったりしている。
ゲームで有名な企業が手掛ける遊園地だけあり、映像技術による迫力あるアトラクションで有名だ。
「……すごい、今の遊園地って進んでいますね」
セイ君はきょろきょろして辺りを見回している。
「うぱぁ、お空がみえない、ゆーえんち、初めてきたよぉ!」
うぱまろは興奮して鞄から勢いよく飛び出した。
「こらっ、うぱまろ!鞄で大人しくしていないと迷子になっちゃうでしょ」
うぱまろは注意するのも聞こえないふりをし、人だかりのなかに消えていく。
「ちょっと!どこ行くのっ」
気が付いた頃には、風船を配る猫ロボットのキャラクターに近づき、風船をもらおうとしている。
「うぱぁも、ふわふわ、ちょうだい!」
あっという間にうぱまろと猫型ロボットの周辺に人だかりができる。
「すごっ、このウーパールーパーのぬいぐるみ型ロボット、最新技術だ!」
「動きがなめらかだし、ひんやりもふもふでかわいい♡」
「うぱぁ、ここのキャラじゃぁ、ないよお!とうぼうせいかつちゅー、だよっ!」
ふにふにとうぱまろを触る女性がスマホで写真を撮ろうとするので、うぱまろはあわてて私の鞄に戻る。
「うぱぁ、あれ乗るっ♡」
うぱまろは懲りずに、「360度回転・怪獣の襲撃」と説明書きのあるカプセル型の丸いアトラクションの前でジャンプする。
パネルを操作しながらVRにて襲ってくる怪獣を倒すところまではごく普通のゲームだが、カプセルが360度後方に回転するのが特徴的だ。
おそらく、体育の授業でやったマット運動の後ろ回りを連続でやっているような状況になるのだろう。
「セイ君、こういうのも苦手かな」
心配して尋ねるが、セイ君は首を振る。
「……何とか、挑戦してみます」
足ががくがくしているけど、大丈夫かな。
カプセルの中は飛行機のエコノミークラスの座席が2つ並んでいる作りだった。
うぱまろは私の膝の上にちょこんと乗っている。
「ようこそ、怪獣の襲撃に立ち向かう美人さんにイケメン君に……えーと、うぱちゃん! 怪獣が接近してきたら、赤いボタンでミサイル発射して攻撃だッ☆ 怪獣が火を噴いていたら、青いボタンで水をかけて火事を食い止めろ! 火事を広げてしまうと、こちらも燃えてしまってゲームオーバー。より多く怪獣を倒すとスコアが高くなるぞ! 回転するから標的をしっかり定めるのがポイントっす☆ ちなみに、本日の最高ランクは15,800点、すぐにゲームオーバーになってしまった最低スコアは1,080点だ!」
安全ベルトを締めに来たスタッフのお兄さんは、テンション高く説明しながらも、うぱまろの存在に戸惑っている。
「……あの、えっと、ぬいぐるみです」
しどろもどろに対応する私。
「ぬいぐるみ落ちちゃうと大変なので、安全ベルトを強く締めちゃいますね!」
お兄さんは安全ベルトをきつく締めると、うぱまろのお腹はぶにっとへこんだ。
「それでは、諸君の検討を祈ーる!」
扉が閉められると、さっそく怪獣の映像が映り、こちらに近づいてくる。
「わーいわーい、かいじゅっ!」
うぱまろは喜んで目の前の青いボタンを押しまくる。
火を噴いていない怪獣に水が出る青いボタンは無効だ。
カプセルがゆっくりと後ろに回転する。
「まわるー、まわるー、せかい☆」
うぱまろは相変わらず青いボタンを押している。
「ぐおっ、ぐあああああああ!」
セイ君は白目になりながら絶叫し、ボタンを押すどころではない。
怪獣は火を吹き始めた。
「うぱまろっ、青いボタンの出番だよ!」
うぱまろは今度は赤いボタンを押す。
「あお、飽きたっ! 次はーっ、みさいるっ☆」
うぱまろの放つミサイルで怪獣を一体は駆除できたが、炎が画面の世界に広がっていく。
「水で消さなきゃ!」
私は急いでセイ君に代わってセイ君の前にある青いボタンを押す。
うぱまろは飽きずに炎に向けてミサイルを放ちまくっている。
炎は画面いっぱいになり、「敗北」という文字が現れた。
カプセルの扉が開く。
「お疲れーっす! 今回のスコアは、10点だ。最低スコアをたたき出してしまったが、頑張りは認めよう!」
お兄さんに清々しく迎えられたのが、かえって何だか恥ずかしい。
「楽しかったですが、次はもう少し、ゆったりとしたアトラクションに参加したいですね」
セイ君に話しかけると、大きく頷く。
先ほどのアトラクションの隣のスペースは、「真実の泉の館」という占いのアトラクション。
泉をイメージしたタッチパネルに映る質問に答えて、相性占いをするらしい。
「これなら、激しくないですね。行きましょう」
セイ君も同意したので、館の中に入る。
空いているタッチパネルの前に私達が立つと、泉から質問が沸き上がる。
「ようこそ、真実の泉の館へ。占う方の名前を入力してください」
セイ君の方を見ると、セイ君は首をぶんぶんと振る。
「あぴ子さんとを、占うなんてっ……」
「じゃあ、せいくん、うぱぁと占お。 うぱぁ、あぴ子ちゃんとは、占わなくてもぉ、あいしょうばつぐん☆」
思わず声を上げて笑ってしまう。
「そうだよ、うぱまろとセイ君。面白そう!」
セイ君があわあわしている間に、うぱまろとセイ君の名前を入力してしまう。
タッチパネルに質問が浮かび上がる。
「うぱまろさんに質問です。あなたは、正義感が強いと思いますか」
「うぱぁ、つよいよっ!わるいことしてるやつぅ、おしおきっ☆ よわいものいじめや、だますやつは、やっつけるよぉ!」
うぱまろに代わり、「はい」という選択肢を選ぶ。
タッチパネルは、次の質問を投げかける。
「セイさんに質問です。あなたは、兄弟はいますか」
これ、私が聞きたかった質問!
「セイ君、男の子の兄弟いる? ひょっとして双子とか?」
私はどきどきしながら聞くが、セイ君はタッチパネルを凝視したまま、動かない。
「……セイ君?」
いつもに増して、様子がおかしい。
感情のない、人形のような表情をしている。
我に返ったように深呼吸するセイ君は、タッチパネルの「いません」という選択肢を選んだ。
「さぁ、次の質問はなんでしょうね。うぱまろさんと、相性良いといいなぁ」
セイ君が明るく振舞ってくれたのが、妙に胸がつっかえたような気分だった。
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