第41話 やっと会えたね!

「ぐふぉぉっ!」

 横たわる身体で、お腹に思いっきり打撃を感じると思ったら、口から水を吐き出す。

 ゲホゲホと咳き込む。

 視界がぼんやりとする。

 辺りは薄暗い洞窟が広がっている。

 ぼんやりとした視界に、ピンク色の丸い物体。

 身体を起こすと、うぱまろの姿があった。

「あぴ子ちゃん、やっと、おきたよぉ!うぱ、助けたよぉ!」

 うぱまろは私のお腹にドスドスとジャンプをする。

「ぐふぉぉっ!」

 再び、水を吐き出す。

「う、うぱまろ……!やっと、やっと、会えたよ!」

 私はうぱまろの身体をこれでもかというほど抱きしめる。

「あぴ子ちゃん、なんで、こんなとこに……」

 うぱまろが小さな声で尋ねるので、私は思わず大声を上げる。


「うぱまろが突然いなくなっちゃうんだから、心配で探しに来たに決まってるでしょ! どこに行っちゃったかと思ったら、こんなところで何やってるの!」

 うぱまろはしょんぼりと話す。

「ごめんねぇ……。うぱ、借金、ありゅから、ずっと逃げてて。でも、あぴ子ちゃんとのせいかつ、楽しかったからあぴ子ちゃんから離れられなくて……。これいじょう、いたら、借金取りがきてぇ、あぴ子ちゃんも、あぶない……」

 うぱまろは小さな身体をさらに小さくして、下を向く。

「うぱぁ、借金取りにおわれてから、山でとーぼーせいかつ、してたよ。分からないけどどんどん借金、たまったよ。りそく、っていうんだって」

 うぱまろは寝転がる私の額にちょこんと座ると、うぱまろの昔の記憶が私の脳裏に艶やかに浮かぶ。

 な、何これ!?


 うぱまろが、照り付ける太陽の下で、大きな麦わら帽子を被った陽気なラテン系アメリカ人達と一緒にタコスを食べているシーン。

 うぱまろが、ラクダに乗った気難しそうな男性と砂漠を冒険し、サボテンを怖がるシーン。

 うぱまろが、ボルシチを作るロシア人女性の横で、子ども達のお守りをするシーン。

「あっ、まちがえたぁ」

 うぱまろは慌てて、私の額から降り、もう一度額に乗っかる。

 うぱまろって、こんな能力が!?


 うぱまろが背中のぴろぴろに、バケツを乗っけて運んでいるシーンだ。

 バケツのなかにはウーパールーパーが入っている。

 うぱまろはある洋館に到着すると、押し入れの中に隠れている小さな男の子と話し始める。

 奥の扉から白衣の男性が声をかけると、うぱまろは診察室に入り、ウーパールーパーの入ったバケツを見せると、白衣の男性は引き出しからホールコーン缶を取り出し、電卓を叩く。

 電卓には、50万円と打ってあった。

 その後、黒い車と黒服、派手なスーツの男がやってきて、うぱまろに何か話しかけると、うぱまろは車に乗る。

 到着した場所は、何やら怪しい雑居ビル。

 扉が開かれると、バニーガールが飲み物を運ぶ、煌びやかなカジノが広がっていた。

 1玉5000円のパチンコなど、くらくらするほどの、とんでもない額のやりとりがそこで行われている。

 うぱまろはルーレットを何度も回している。

 うぱまろの手元から、あっという間に札束は消えていく。

 派手なスーツの男は、建物の別のフロアへとうぱまろを連れて行く。

 柄の悪いスキンヘッドの男と、モヒカンの男に話しかけられるうぱまろ。

 うぱまろは何かタグのようなものを見せると、スキンヘッド男とモヒカン男は目を合わせた後、満面の笑みでうぱまろが持っていた金額の2倍ほどの札束を渡す。

 うぱまろはまたカジノのフロアに行く。

 そして手元の札束はまた無くなる。

 

 その後は、うぱまろが水族館を飛び出し、山に籠もって木の根っこを「ゴボウ!」と言いながら齧っているシーンや、大きな葉っぱの下で雨を凌いでいるシーン。

 ときおり繁華街に出ては、食べ歩きする人から食べ物を貰っているシーンに、数字の書かれた書類を持ったスキンヘッド男やモヒカン男に追いかけられているシーン。道端でボールに乗る芸をして小銭を集め、それをちょこちょこと、スキンヘッド男達に返済するシーンが度々見られる。

 借金取りの示す書類の数字の額は、どんどん大きくなっていった。

 うぱまろは、人と戯れては、ちょこちょこと借金取りに返済し、逃げ続けていたらしい。


「ほんとは、ずっと山にいればいいんだけど、うぱぁ、さみしくなっちゃって。よくないって、思ってたけど、また、だれかと、一緒のせーかつ、したくなっちゃった。そしたら、あぴ子ちゃんが、見つけてくりぇたよ」

 ポロポロと泣き始めるうぱまろ。

「あぴ子ちゃん、ごめんねぇ……。うぱぁ、勝手だよねぇ……。うぱ丸、なおすの、大変だったよぉ。こんなに、なるなんて、思わなかったぁ。でも、うぱ丸、見捨てられなかった。あぴ子ちゃんにも、めーわく、かけちゃったよぉ」

 うぱまろの涙に、私もぼろぼろと涙を零し、泣き始める。

「私こそ、うぱまろの借金に向き合ってあげられなくてごめんね。うぱまろ、はっきり言うけどね、うぱまろは悪い人に騙されてしまったの」

 

 うぱまろは飛び上がって驚く。

「えっっ!」

「弟くん……うぱ丸の薬、あれはホールコーン缶って言って、安いの。スーパーで大きさにもよるけど、1缶100円くらいで購入できる。薬なんかじゃない。あれ食べても病気治らないからね」

「えええええっ!」

「それに、紹介された場所は裏カジノ。賭け金が異常だし、そもそもカジノは日本では許されてないの」

「えええええええええっ!」

「お金を貸してくれたところも、違法な金利。違法」

「えええええええええっ!」

 うぱまろはショックを受けたのか、背後に漫画のようにガーンという文字が見える。

 わなわなと震えるうぱまろ。

「うあああああああああん!うそだぁぁぁぁ!わんわんわん!ゆるさぁぁぁんっっっ!」

 うぱまろは洞窟の奥へと転がっていく。


 ものすごい速さだ。

 うぱまろって、のそのそ歩いてたのに、こんなに早く移動できたんだ!

「また、私を置いてくの!」

 洞窟の奥に向かって叫ぶ。

 せっかく会えたのに、またいなくなっちゃった。

 事実を知って、余程ショックだったのだろう。

 うぱまろ。

 じんわりと涙が溢れる。

 最近、私、泣いてばかりだ。


 洞窟の奥から、賑やかなメロディーが聞こえる。


 ヘイ!

 君の瞳に乾杯!

 愛しのハニー!

 俺のプリンセス!

 エデンにカモン!


 何だろう、このいかれたメロディ。

 山に合わなすぎでしょ。

 路上ライブでも痛すぎるでしょ。

 でもこれ、新宿とか池袋とかの繁華街を歩いていると、こんな感じの曲ってよく耳にする様な気が。

 

 洞窟の奥から、大きな車がやってくる。

 トラックか?

 目の前で止まる。

 横をのぞき込むと、スーツを来て薔薇を持ったタマキさん……ではなく、残念ながらどこぞと知れぬ決め顔のイケメンだった。  

 「ホストクラブ・ハニープリンセス」って、これ、ホストの宣伝カー?!

 トラックの上に乗るうぱまろはぴょこんと降りる。

「あぴ子ちゃん、イケメンカーで、悪いやつらを、せいばい、するぞぉ!」

 嘘でしょ!

 うぱまろ、どうやってこれ、動かしたの?!

 てか、どこからこれ、持ってきたの?


 脳裏にぽぽちゃんの言葉が浮かぶ。

 「ホストを派手に宣伝することにしたの」

 これ、絶対、ぽぽちゃんの宣伝カーだ。

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