第42話 うぱまろの逆襲
※この小説は、不法投棄、窃盗、無免許運転、器物損害、不法侵入等その他の違法・迷惑行為を助長するものではございません。
おそらくぽぽちゃんの私物であろう、どこから持ってきたのか分からない宣伝カーに対し、うぱまろに質問する。
「うぱまろ……これ、どこにあったの?」
「こりぇ、どーくつの、おく! こわーい女の人、このイケメンカー、いらないって!」
うぱまろは再び、私の額の上に乗る。
脳裏に浮かび上がったのは、洞窟の奥の岩に隠れているうぱまろのシーンだ。
しばらくすると、例のイケメンカーと赤い外車が洞窟を走って現れる。
運転席から作業員らしき中年男性、外車の助手席からぽぽちゃんが降りてくる。
「このアドトラック(宣伝カー)、本当に捨ててしまっていいのですか?まだまだ綺麗だし、他のことに再利用もできるかと……」
中年男性のオドオドとした態度とは真逆で、ぽぽちゃんは男性に怒鳴りつける。
「このホストには愛想尽かしたの。マジに薄っぺらい奴だった。担当変えるわ。こんな疫病神の宣伝カーなんて再利用したら新担当のツキが落ちるに決まってる」
ぽぽちゃんはトラックを足で蹴る。
「これ、捨てるやつだし。あんた、持って行って好きにしていいから」
そのままぽぽちゃんは外車に戻り、来た道を戻っていく。
1人取り残された男性は、宣伝カーを見てつぶやく。
「もったいないなぁ」
男性は、トボトボと洞窟の出口へ1人寂しく歩いて向かう。
ぽぽちゃん、なんかもう、言葉が出てこないわ。
私の気持ちに反し、うぱまろは上機嫌だ。
「ね、いらないんだってぇ。さ、あぴ子ちゃん、のったのった!」
「うぱまろ、この宣伝カーで、借金取りのところに突撃するつもり?」
「そだよ! ……あっ!」
うぱまろは飛び上がった。
「しょしたら、このイケメン、借金取りたちに恨まれちゃうよぉ! うぱみたいになっちゃったら、だめだぁ」
うぱまろは宣伝カーによちよちとよじ登り、ジャンプをする。
「えいっ!きせかえするよぉ」
たちまちホストの決め顔は、スキンヘッド男やモヒカン男の決め顔に切り替わった。
えええええええっ!
最高に似合わなさすぎる。
じゃなくて、うぱまろ、こんなこともできるの?!
「なんか、びみょー。やっぱり、せいせいどうどう、うぱぁで、勝負!」
うぱまろがもう一度ジャンプすると、金の水槽にうぱまろが入り、生ハムやドーナツが水槽に投げ込まれている宣伝カーとなった。
宣伝カーの運転席の扉が開き、あっという間に私は座席に吸い込まれる。
「うぱぁかー、しゅっぱーつ!」
うぱまろが上にちょこんと乗った宣伝カーは、物凄いスピードで洞窟を駆け抜ける。
「う、うそでしょー!」
シートベルトを辛うじて締め、泣き叫ぶものの、宣伝カーの音楽でかき消されてしまう。
洞窟を脱出すると、木々の生い茂った暗闇が広がる。
時計を見ると、午後12時。
どうりで暗いわけだ。
宣伝カーは山道を駆け抜ける。
「あ、人……!」
山道の出口に、青い2つのサイリウムと人影が揺らめく。
暗くてよく見えないが、サイリウムの光から照らされた雰囲気で男性だと分かる。
うぱまろの絵の描かれた宣伝カーを見て、何か叫びながら手を振っている。
男性と宣伝カーがすれ違うとき、ライトの光で一瞬顔がはっきりと見える。
「セイ君!」
私と目が合ったセイ君は、一瞬だけ安心した表情をした。
青いサイリウムに「タマキさん命」と書いてある。
「ひょっとして……!」
リュックの中を見ると、私の青いサイリウムが2本ない。
懐中電灯代わりに持ってきたサイリウム、絶対に私のやつだ!
「セイ君!タマキさんのサイリウム!」
セイ君は宣伝カーを追いかけるが、どんどんと距離が離れていく。
ちなみに、「ポーカー探偵☆エクスプレス」は2.5次元舞台は存在しない。
なぜサイリウムがあるかって?
それは、家でタマキさんのアニメを鑑賞する際やカラオケ時にこれを振り回すとテンションが上がるという、ただそれだけだ。
辺鄙な山から、うぱまろの宣伝カーが借金取りの事務所兼裏カジノの前にたどり着いたのは深夜2時。
うぱまろは宣伝カーから飛び降りる。
「うぱぁは、これから、闘いに行くぞぉ!あぴ子ちゃんは、車で、待っててねぇ!危険だから、来ちゃだめぇ」
そう言ってうぱまろはビルの中へ、いつものように、のそのそと歩いて行く。
ぼろぼろの壊れかけたビルは、一階は階段とエレベーターのみ、2階に「つるつるファイナンス」という怪しい金融期間の名前、3階には窓に黒いカーテンがかけられている。
うぱまろの後をこっそりとつける。
3階のインターホンをうぱまろが鳴らすと、派手なスーツの男が出てくる。
派手な男は何が面白いのか分からないが、ゲラゲラと笑っている。
うぱまろとスーツ男は2階に降りて、インターホンを鳴らすと、スキンヘッド男とモヒカン男が出てくる。
スキンヘッド男、今日はロン毛になっている。
ドアが閉まり、数十秒後。
ドアは豪快に開き、男達全身がずぶ濡れになって飛び出す。
スキンヘッド男のウィッグは、斜めにずれて頭からずり落ちる。
「私のお高いスーツが!」
「俺の自慢のモヒカンが!」
「俺の新しいウィッグが!組長に言いつけてやる!」
捨て台詞を吐き、半泣きでビルから走って出て行く。
男達が去るのを待ち、私はそっと部屋の中を覗く。
部屋の中は、バケツの水をひっくり返したように水浸しになっていた。
「うぱぁ、みずでっぽうで、こらしめたよ!」
うぱまろの手には、水浸しになって殆ど読めなくなった借用書があった。
「え、えええ……」
疲れもあったのか、驚きの連続で、私はその場に座り込んでしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます