第18話 ご実家にご挨拶
今年の仕事も無事終了し、年末休みに突入。
12月31日、大晦日。
ボストンバッグに着替えやお土産の荷物を入れ、うぱまろと一緒に実家に帰省する。
実家のドアを開ける。
懐かしい、我が家の匂い。
玄関には小学生時代に図工の授業で描いた絵が、まだ飾ってある。
「ただいま」
「おかえりなさい、あぴ子ちゃん。待ってたわぁ」
おばあちゃんが出迎える。1年前に帰省ときより更に一回り、小さくなったような気がして、胸がしゅんとなる。
「はじめましてぇ」
うぱまろはおばあちゃんに挨拶をする。
びっくりして、おばあちゃん、ひっくり返っちゃったらどうしよう。
「あらっ、はじめまして!あぴ子ちゃんったら、珍しい動物を飼ったんだねぇ」
おばあちゃんは目を細めてうぱまろを見つめている。
玄関のドアが開く。
「あぴ姉」
相変わらずのぱっつん前髪に、腰まである重めの黒髪、レースたっぷりフリッフリ服。
都内大学に片道3時間かけて通う大学生(20歳)の妹・ゆぴ美だ。ゆぴ美のことを、私はゆぴゆぴと呼ぶ。
「ゆぴゆぴ、おかえり」
ゆぴ美は、うぱまろから目を離さない。
「あぴ子ちゃんのペットですって。ゆぴ美ちゃん、見たことある?」
「……」
ゆぴ美は、必死に考えている。
「賑やかだと思ったら、あらっ、全員集合ね!」
エプロン姿で降りてきたのはお母さん。
「あぴ子、連絡くれれば迎えに行ったのに!あら、この子は……」
お母さんも不思議そうに見ている。
ゆぴ美は、ひらめいたように手と手を叩いて一言。
「パグ」
お母さんも同調する。
「そうね、これはパグね」
「さすが、若い子はいろいろ知ってるのぉ。都内には、珍しい動物がたくさんいるのねぇ」
「ぱ、ぱぐぅ?!」
パグ扱いされて、うぱまろは少しショックだったみたいで落ち込んでいる。
家族揃っての夕食。
テーブルには、出前のお寿司と、おばあちゃんの作った天ぷらや煮物が並べられている。
「あぴ子ちゃんが来るから、張り切っちゃったよ」
「そうよ、危ないからやめなさいって言ったのに。おばあちゃんったら、聞かないんだから」
「ありがとう。家のご飯、久しぶりだよ」
天ぷらや煮物を頬張る。
懐かしい。上京してから、自分の料理ばかり食べていた。誰かの作ったものを食べる機会なんて、そんなになかった。
揚げすぎてフライのようにカリカリになった、我が家の天ぷら。決してものすごく美味しい訳ではないけれど、ほっこりする味。
「そういえば、あの彼氏とはまだ付き合ってるの?」
お母さんが聞いてくる。
「夏に振られて別れちゃった。で、うぱまろ飼ってる」
「そう」
お母さんは、うぱまろを見つめる。
「ゴボウ、味、染みぃ!おいひー!」
天ぷらや煮物をボリボリと食べるうぱまろの前に、醤油皿にお茶を注いだものを置く。
「おちゃ、ありがとぅ」
ゴクゴクと飲み干す。
「男なんて、この世に溢れてるけど、この子はなかなかいないわ。大事にしなさいね」
お母さんは、シングルマザー。
酒癖の悪すぎるお父さんと別れてから、おばあちゃん、おじいちゃんの協力のもとで私達姉妹は育てられてきた。
「こんな美人になった姿を、じいさんにも見せてあげたかったねぇ。ねぇ、じぃさん」
おばあちゃんは、おじいちゃんの遺影へ話しかける。
よく分からないけど、胸が締め付けられて、なんだか泣きそうになる。
「ゆぴも、あぴ姉の元彼より、これのほうが、かわいい。すき」
ゆぴ美は、うぱまろを掴んでぎゅっと抱きしめる。
「もとかれぇ、しらにゃいけどぉ、うぱぁのほうが、あぴ子ちゃん、笑わせてる自信、ありゅよ!タマキさんと一緒にね!」
どっ、と家族の笑いが起こる。
年末の紅白歌合戦はただのBGMと化し、久しぶりの団欒を楽しんだ。
温かい蕎麦をすすっていると、鐘の鈍い音が聞こえる。
「これぇ、何だぁ?」
「これは、除夜の鐘。大晦日の夜から元旦にかけて、108回聞こえるよ」
「何でぇ、108回なのぉ?」
「人間の煩悩が108個あるからじゃなかったかな」
「えっっ!108個もあるんだねぇ!うぱぁは、おいしいものぉ、食べたいばっかりだぁ」
「うぱまろは食いしん坊だからねぇ」
蕎麦を食べにくそうに、頑張ってすするうぱまろ。
「あぴ姉は、今年、どんな年?よかった?」
蕎麦に大量に唐辛子を振りかけながら、ゆぴ美が聞いてくる。
「どんなって。ゆぴゆぴはどうよ?……ってか、その唐辛子蕎麦、絶対うぱまろにあげちゃだめだからね」
醤油皿に唐辛子蕎麦を入れようとしたゆぴ美を阻止する。
「まぁまぁ。で、あぴ姉は?」
今年は、彼氏に振られた最悪の年。
うぱまろをちらっとみると、ゆぴ美の唐辛子蕎麦を羨ましそうに見つめている。
いや、うぱまろに出会えた最高の年。
「もう、何でもいいでしょ」
照れ隠しに蕎麦を一気に口に流し込む。
あなたにとって、今年はどんな年でしたか?
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