第20話 愛の争奪戦❤️

 新聞に挟まっていた広告を見る。

 早いところでは、1月2日より初売りが始まるらしい。

 ゆぴ美がショッピングモールに福袋を買いに行きたいというので、私もつき合うことにした。

「あぴ子ちゃん、助かるわぁ。毎年、お母さんがゆぴ美と行ってるんだけどね、朝早いのよ。オープンが10時なのに、ゆぴ美ったら、7時から並ぶなんて言うのよ」

 お母さんは、化粧水でケアをしながら、「犠牲者が見つかって良かった」といった顔で私に笑いかける。

「あぴ姉、よろしく」

 顔パックをしたゆぴ美が追い討ちをかける。こ、怖い。


 1月2日、午前5時50分。

「……ったく、寝ているだけでいいよね」

 ゆぴ美は、うぱまろを枕代わりにしてグースカグースカといびきをかいて寝ている。

 うぱまろは何かに魘されているようにヴーヴーと寝言を言っている。

 後方座席へ向かって1つため息をし、ショッピングモールへと車を走らせる。

 日の明かりもなく、暗い朝の道。

 走らせる事に、少しずつ朝の日差しが降り注いでくる。

 

 無事目的地に到着し、ゆぴ美を叩き起こす。

 寝ぼけ眼のゆぴ美を、引きずるようにしてショッピングモールの入り口へ連れて行く。

「ちょっと、なに、これ」

 「最後尾はこちら」とプラカードを持った従業員が、白い息を吐きながら誘導している。

 入り口の前には50メートル程の待機列ができている。

「今日は、少ない」

 ゆぴ美は目を擦りながら並ぶ。

「ゆぴゆぴ、何買うの?」

持ってきたチラシを広げて、一カ所をつつく。

「ああ、これね」

 ゆぴ美の好きな、フリフリ洋服のブランドだ。限定30個と書いてある。

「あぴ姉、どれ?」

「うーん、これかな」

 いつも使っている、メイクブランドの福袋。限定10個と書いてある。

「これ、厳しいかも。あぴ姉、ダッシュ、がんば」

確かに厳しいかもしれない。

「寒い……」

「ありえないくらい着込んできたのにね。水筒に温かいお茶淹れてきたよ」

 真冬の朝、外でじっとしているのは身体に堪える。

 うぱまろはまだ、すぴすぴと眠っている。

 ダッシュに備えるのと、寒さを凌ぐためにリュックサックに入れる。

 ゆぴ美と雑談したり、スマホゲームをやっていたりしている間に、あっという間にオープンの時間になる。


「お待たせしました、押さない、駆けないでください」

 店員がそう言っているのにも関わらず、待機していた人達は一斉に駆けていく。

「あぴ姉、9時30分に中央広場で!」

「互いの健闘を祈る!」

 私達も、お目当ての場所まで一目散に走っていく。


 お目当てのコスメコーナー。

 あ、あった!

 残り1つを手に取ろうと手を伸ばす。私と同時に、商品に手を掛ける女性。

 女性と商品を取り合い、無言の睨み合いが繰り広げられる。

 気まずい。

 だが、私も3時間も並んだのだ。

「うわぁ、何?!」

 女性は驚いて手を放し、その場に座り込む。

 私はその瞬間を逃さず、すかさずレジに持って行く。

「いらっしゃいま……」

 ショップ店員は、バーコードを読みとる機械をガシャンと落とす。

 レジの向こうに、大きな鏡がある。

 映っていたのは、私の顔と、リュックサックからぴょっこりと顔を出し、サンプルの赤いリップグロスを口の周りに塗りたくったうぱまろの姿だった。

「あぴ子ちゃんとぉ、おそろいぃ♪」

 まるで、唇オバケだ。

 どこかでこんなマヌケなオバケを見たような、見なかったような。


 無事にゆぴ美と中央広場で待ち合わせする。ゆぴ美も無事に福袋を買えたようで、戦利品を誇らしげに抱えている。

「次、どこ行く?」

「手帳、買ってない」

「じゃあ雑貨コーナー見に行こうか」

「ごーごー」

ゆぴ美とショッピングを続ける。

こうやって、ダラダラと買い物を何となく楽しめるのは、姉妹の良いところかもしれない。 

 

 買い物の途中、ゲームコーナーを通りかかる。

「これ、やろ」

 ゆぴ美はプリクラコーナーを指差す。

「今なんか、スマホでいくらでも自撮りして加工できるじゃん」

「アナログ、強い」

 半ば強引にゆぴ美に引っ張られ、プリクラ機に入る。

 「美白+光=正義☆」と書かれたプリクラ機。

 100円玉を4枚入れると、アナウンスと軽快な音楽が鳴る。

「何人で遊ぶのかな?」

 プリクラ機の中の人に言われるので、2人を選択。

「だれか、しゃべった!」

 うぱまろはプリクラ機に興奮している。

「どのモードにする?ラブラブカップル?仲良し2人組?」

 ゆぴ美は、ラブラブカップルを選択する。

「カップルで指と指をあわせて!ハートを作ろう!3・2・1」

 カシャッ!

 2人で作った指のハートのなかに、うぱまろの顔がどアップで映った。

「次のポーズは、彼女が彼の腕にくっついて!3・2・1」

 カシャッ!

 ゆぴ美も私も、どちらも自分が彼女役を演じたため、互いの腕を引っ張り合う形となる。

「最後のポーズは、顔と顔を寄せ合って、カメラに向かって笑顔でピース!3・2・1」

カシャッ!

 顔を寄せてピースする、2人の頭にうぱまろが乗っかった。

「落書きターイム!」

 ゆぴ美は、プリクラで撮った写真のうぱまろにサングラスを乗せたり、私に「光の女神☆」といったタスキをかけたりして楽しそうに落書きしている。

 私もゆぴ美の写真にネコ耳加工をしてやり返す。


 しばらくし、出来上がったプリが印刷される。

 ゆぴ美は、大切そうにボロボロのシール帳を取り出す。

「それ、まだ持ってたんだ」

「まぁね」

 幼い頃からのゆぴ美の思い出のシール帳今日の分を貼る。

 子どもの頃、撮ったプリは色褪せてきている。

 いつか、このプリを見返す時が来るのだろうか。

分かっているのは、今日のプリが、色褪せる日が、必ずやってくるということだ。

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