第24話 君と僕だけしかいない世界☆
部屋の窓を開けると、白銀の降り注ぐ世界となっている。
昨晩のうちに、雪が積もったらしい。
都内にしては珍しい。
「うぱまろ、雪だよ」
毛布にくるまっている体から、ピロピロをちょんと出すうぱまろは、もぞもぞと起き出す。
のそのそと窓辺に向かってやってくる。
「しろい、せかい、いく!」
「えー、寒いよ」
「いく!」
うぱまろは自ら散歩用の紐をくわえ、私の足に巻き付けようとする。
「分かったから!行けばいいんでしょ」
渋々と公園に向かう。
吐く息が白い。
降り注ぐ雪の欠片がどれだけ冷たいかを頬が感じる。
かなり積もった様で、進んだ方向へ足跡がついていく。
分厚いコートに、手袋、マフラー、イアーマフ、ブーツで防寒対策をしっかりする。
寒くないように、うぱまろにも毛布を巻き付けたが、毛布を蹴飛ばし、地面に向かって着地した。
うぱまろが進むと、雪にズボズボと埋もれていく。
「ふわっふわっ!」
うぱまろはきゃっきゃと飛び上がる。
どうやら雪が冷たくないらしい。
「うぱぁ、あれやってみたいんだぁ。雪で、おうち作るやつ!」
かまくらだろうか。
「けっこう時間かかるし、中も寒いと思うよ?」
「やる!あれ、うぱぁ生きてるうちに一回はやりたいんだよねぇ」
……それだけ懇願されると、やるしかないよね。
私はうぱまろを毛布に包ませ、上にカイロを乗せる。
かまくらは、子供の頃に雪が降ったとき作ったことがあるから、何となく作り方を覚えてる。
サッカーボールほどの大きさの雪玉を3つ、ごろごろと転がして作る。
雪の固まりがある程度大きくなったら、その上にうぱまろはちょこんと乗って玉乗りのように楽しんでいる。
2つの雪玉を並べ、上に残りの一つを置く。隙間に、雪を埋め、手でぺちぺち叩いて大きな山を作るように固める。
ある程度固まったら、真ん中あたりを掘っていく。
手袋は水っぽくなり、手がヒリヒリする。
「うぱまろ、代わって」
「うぱぁ、じぇっと☆」
うぱまろは勢い良く山の中央下辺りに突っ込んでは、雪を掻きだしていく。
1時間弱程で、うぱまろが余裕で入れるくらいのかまくらが完成した。
「できたよ」
うぱまろは完成したかまくらを見ると、毛布から出て楽しそうに入っていく。
「うあぁ、これがかまくらかぁ。うぱぁは、暑いところにいたから、雪って珍しくてぇ」
うぱまろは飽きずに、白い息を吐きながら、かまくらから出たり入ったりを繰り返す。
「うぱぁはうす!あぴ子ちゃんも、入ろぉ」
「小さすぎて無理だって」
苦笑すると、うぱまろは外に出てくる。
「ゆきがっせん、しよぉ」
「分かった」
うぱまろは雪玉を投げ合うなんてこと、出来るんだろうか。
雪玉を丸めて、うぱまろに投げる。
ぽん、とうぱまろにぶつかり、雪玉は崩れる。
「雪合戦にならないでしょ」
うぱまろは地面に積もった雪に顔を突っ込んだり、足をジタバタさせたりして雪をこちらに向けて一生懸命飛ばそうとしている。
全然飛んでこないところがまた、かわいい。
「ふん!」
うぱまろはすねてかまくらに戻っていく。
悪ふざけをして、かまくらの入口を雪で埋めてみる。
うぱまろは、かまくらを突き破って外に出る。
「ゆきからうまれた、うぱぁだよ!」
今日もうぱまろは元気一杯だ。
日も暮れたので、そろそろ夕食の材料を買いにスーパーに寄る。
「こんな日はぁ、あったかいもの、食べたいねぇ」
リュックのなかでぶるっと身震いをするうぱまろ。
実は寒かったのかもしれない。
「鍋にする?うぱまろは何の鍋が好き?」
うぱまろに尋ねる。
「え、なべ?!なべ、かたいよぉ」
うぱまろは鍋料理を知らなかったらしい。
「寒い時は鍋に限るよ。どのスープがいい?」
鍋用スープコーナーに行く。
ちゃんこ、すき焼きといったベーシックのものから、豆乳やコーンスープといった変わり種まで様々だ。
「こ……これは……!」
リュックから顔を出し、コーンスープ鍋を見て震えるうぱまろ。
「あぴ子ちゃんってぇ、おかね、もってるんだね!」
「持ってないよ」
コーンスープ鍋に対してお辞儀するうぱまろ。
うぱまろの生まれた国では、トウモロコシが高貴なものなのだろうか。
「そういえば、この前居酒屋でトウモロコシのかき揚げ食べてたけど気が付かなかった?」
「な、なんとぉ……かきあげ、変わり果てた、おすがたに……」
うぱまろは、がくりと崩れ落ちる。
「コーンスープ鍋にする?」
「いやっ、おそれ、おおいねぇ……これにしようぅ。おにくぅ!」
すき焼きの鍋の方を見つめるうぱまろ。
牛すき焼きの方が高いんだけどな!
肉コーナーに行き、すき焼き用の肉を見る。
「てまえのがいい!とくばいだよ!」
手前の肉を手に取る。
黒毛和牛、200グラム2800円。
「お、畏れ多い……!」
時々感じる、うぱまろとの価値観の違い。
人の価値観は、生まれ育った環境によって作られていく。
うぱまろの価値観は、どのようにして作られたんだろう。
スーパーで哲学を考えるあぴ子だった。
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