第4話 お外もお部屋も脳内も悪天候☂
うぱまろが家にやってきた、次の日。
窓の外から、雷鳴が鳴り響く。
激しい雨風を感じ、急いで窓を閉める。
大人達が戸締まりや停電対策をせっせとするなか、幼い頃の私には、テーマパークのアトラクションのように感じ、これから何か面白いことが起こるのではないかと心躍っていた時期があった。
「こんな天気じゃ、こわーい借金取りも来にゃくていいねぇ」
うぱまろはチャームポイントのぴろぴろを細かく動かしながら、にこやかに話しかけてくる。
えっと、私、借金はしていないのだが。
あと、借金の取り立てって、天気とか関係あるんだろうか。
「うーん。むしろ悪天候の方が、外出を避けて債務者が家にいそうだから、私だったらあえて悪天候の日に取り立てるけどなぁ」
「あぴ子ちゃん、怖すぎぃ!執念深いょ!」
うぱまろは自分よりも大きな、ひよこのクッションの影に隠れる。
奇妙なことを言うウーパールーパー(やはり、「小犬」の要素が全くない)だ。
とにかく、こんな日は外に出たくないから、家に引きこもるしかない。
私は何事も無かったように、テレビを付け、契約した見放題動画配信サービスを選択する。
「おおっ、あぴ子ちゃんおすすめの面白い番組、うぱにも見しぇて!」
おすすめの番組。
私は、スイッチが入ったようにあるアニメの第8話を選択する。
「えぇ、8話?1話じゃにゃいの?」
「いいから観てみてよ」
軽快なオープニングが流れる。
愛するタマキさんが登場。
「うぉぉぉぉぉっ!私の、愛おしいタマキさんっ♡」
「あぴ子ちゃん!?」
人が変わったような雄叫びに、うぱまろは飛び上がる。
この第8話は…頭脳明晰なタマキさんが殺人事件をクールに解決するストーリーだ……!
眉をひそめるタマキさんに、キラースマイルを振りまくタマキさん……。
ああ……、素敵すぎて逆に辛い。
尊くて涙が溢れて……止まらないっ!
犯人との10秒程の戦闘シーンは、止めて巻き戻し、再生を少なくとも1000回は行ってきた……たったの1000回しか再生していないからかもしれないが……飽きないどころか1日中観ていられる……。
いや、家中の食糧がなくなるまで……この命が尽きるまで観ていられるッッッ!
ああ、タマキさん。
生まれてきてくれて、ありがとう!
約30分で8話終了。
私は再生ボタンを押す。
「えぇ、また観りゅの?!」
「当たり前でしょ」
ちなみにタマキさんの登場回は、全15話あるうちの8話だけである。
「あぴ子ちゃん……、頭、だいじょーぶ?」
エイリアン同然の生物にまで心配されてしまった。
リア友に言われるのはもう慣れたが、うぱまろに指摘されるダメージは大きい。
それにしても、タマキさんの良さが分からないなんて。
私はふてくされて、ゲーム機の電源を入れる。
乙女ゲーム、アクションゲーム、育成ゲーム……どのゲームにしようか悩む。
そういえば、最近運動不足だ。
フィットネス系のゲームを選択。
足音で近所迷惑にならないよう、ヨガマットを敷く。
付属のハンドルを押し込むと、元彼と、私のアカウントが出てくる。
元彼のアカウントを即削除する。
私のアカウントの「あぴ子」を選択すると、画面に、しなやかで逞しい体つきの主人公が現れる。
丸い輪のようなハンドルを握りながらヨガマットの上で走ると、ゲーム上の主人公もフィールドを駆けていく。
「これ、しゅごいにぇ!こんなげぇむ、見たことない!」
うぱまろは興奮して叫ぶ。
ゲーム内でダンジョンを走ると、敵キャラクターが出現。
敵にダメージを与えるためには、筋トレをしないといけない。
私は、スクワットをしたり、ハンドルを頭上に持ち上げて両手で押し込んだりする。
敵を全て倒して、1ステージクリアする頃には、汗だくで呼吸も乱れていた。
「うぱも、やるぅ!」
うぱまろは、丸っこい体に、短い手足(?)。
このハンドルは、人間用だ。
「……絶対できないと思うよ?」
クリア済みの一番簡単なステージを選択し、うぱまろにハンドルを握らせる。
「ふぬぅぅぅ!」
手の部分(?)で押し込むも、全く動かない。
「気を取り直してぇ、走ろうぅ!」
ハンドルを持とうとするが、持ち上がらない。
反動余って、うぱまろの体はハンドルの中へと飛び込み、すっぽりとはまってしまった。
「抜けないぃぃ!」
じたばたと手足を動かすも、ハンドルはうぱまろの体を離さない。
うぱまろを救済するため、私はうぱまろをハンドルから引っ張る。
「いたたたた!」
痛がるうぱまろを無理に引っ張り出す訳にはいかない。
「抜けにゃいよぉぉぉ」
うぱまろはぽろぽろと泣き始める。
大変だ。こういう時って、どうすればいいんだろう。
動物病院に連れて行くべきだろうか。
減量すれば、いつか抜けるだろうか。
少し考え、風呂上がりにいつも使っている保湿用マッサージオイルを取り出し、うぱまろにかける。
オイルがハンドルの周辺に染み込み、少し回す。
すぽん。
オイルまみれのうぱまろはハンドルから勢いよく飛び出し、ひよこのクッションに突撃した。
「うぱまろ!抜けて良かった!」
うぱまろのオイルをタオルで拭き取るように撫でる。
「うぱ、諦めないよぉ」
オイルのラベンダーの香りをほのかに纏ったまま、うぱまろはハンドルを恨めしそうに見つめた。
雷鳴は、鳴り響く一方だった。
次の日。
昨日のフィットネス系のゲームの続きをやろうと、ゲーム機の電源を入れる。
アイコンに現れたのは、「あぴ子」と「うぱまろ」。
うぱまろのアイコンを選択する。
なんと、私の進めたステージまで進んでいた。
ここまで進めるのに、3ヶ月かかったのに。
うぱまろを見つめると、毛布にくるまってすやすやと眠っている。
一体、どうやったんだろう。
脳内に雷が落ちるくらいの衝撃が私を襲った。
反して、窓の外は雨が上がり、清々しい青空が広がっていた。
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